
あらすじ
東京の管弦楽団でチェロを演奏していた小林大悟(本木雅弘)だったが、ある日の演奏後、楽団のオーナーが現れ突然「解散します」と宣言する。
いきなり職を失ってしまった大悟は、「また次探せばいいじゃん」と明るく振る舞う妻の美香(広末涼子)に、チェロ奏者として自分ぐらいの腕だと次の職場もないといい、さらに内緒で買ったチェロの借金1800万円もあると途方に暮れる。
チェロ奏者として、演奏旅行しながら一緒に生きていこうという夢をあきらめることを決心し大悟は、ふたりで田舎の山形県酒田市へ帰ることにする。
”自分が信じていた夢は、たぶん夢ではなかったのだ”
大切なチェロも処分し、2年前に死んだ母が残してくれた家で、新しい生活を始めるふたり。
一緒に食事をしているときに、大悟はふとテーブルの上に広げてあった新聞の求人広告を見て、「これだ!」という。
”旅のお手伝いをするお仕事です”と書かれたNKエージェントという会社に目が留まり、美香にとりあえず話を聞いてくるといい、さっそく町へ出かけた。
古びた3階建ての建物にやってき大悟は、入り口のNKエージェントの看板を確認し、ドアを開け中に入っていく。
部屋の中にいた女性に「面接に来た小林です」と名乗り、「こちら何の会社ですか?」と問いかける大悟に、女性は「あなた何も知らんで来たの」とあきれ、思わず含み笑いを浮かべる。
そこにちょうど、爪楊枝を加えながら帰ってきた社長の佐々木 生栄(山﨑努)。
大悟が差し出す履歴書をテーブルに放り、向かい合って座る社長は、「採用!」といい、女性にすぐに名刺を刷るように指示する。
戸惑う大悟が、具体的にどんな仕事なのかを聞くと、社長は「納棺」と答える。
遺体を棺に納める仕事だと言われた大悟は、慌てて広告には”旅のお手伝いをするお仕事です”と書いてあったというが、社長はあれは誤植でほんとは”旅立ちのお手伝い”で、NKは納棺NKだと答える。
そして腰が引けている大悟に、とにかくやってみて、向いてないと思ったら辞めればいいさといい、今日の分と言って現金2万円を渡す・・・。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:2008年/日本/130分
- 監督:滝田洋二郎
- 脚本:小山薫堂
- 音楽:久石譲
- キャスト:本木雅弘/広末涼子/山﨑努/余貴美子/吉行和子
レビュー
”納棺師─
それは、悲しいはずのお別れを、
やさしい愛情で満たしてくれるひと。”
納棺師という、映画の題材にするにはかなりデリケートな職業に携わることになった若者を描いた、滝田洋二郎監督作『おくりびと』をDVDにて鑑賞。
本作は死を扱いながらも、家族愛や夫婦の愛を丁寧に描き、第32回日本アカデミー賞の最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞・最優秀主演男優賞・最優秀助演男優賞・最優秀助演女優賞他10冠を見事達成した。
納棺師という余りに馴染みのない職業のイメージは、遺体に死装束を着せ死化粧を施して棺に納めるというもの。
始まってすぐ、大変な仕事選んじゃったね、なんて訳の分らないまま社長に振り回され、戸惑う主人公をくすくす笑いながら見ていたが、次第に納棺師という仕事の重みや奥深さを感じさせられていく。
ただここにこの作品のテーマのひとつがあり、納棺師について主人公をはじめ妻の美香も含め、先入観で一方的にネガティヴなイメージを持ち最初は否定的で、納棺師に対する偏見が露わにされる。
遺体を前にして、故人の尊厳を守りつつ、故人が安心して旅立てるように新しい衣装に着替えさせ、さらに送り出す遺族の悲しみを癒やすために、表情が少しでも安らかに見えるように化粧を施す納棺師。
劇中で遺族らのそれぞれが抱える複雑な思いを、納棺師の化粧により眠っているように穏やかな表情を浮かべる故人に告白する姿。
生前に伝えられたなかった後悔と、それ以上に最後の最後に伝えられたことで、おくりびとたちの心まで安らぎで解放される。
劇中で行われるこの儀式のようなシーンは、過剰なパフォーマンスのように感じる部分もあるが、観ているものに厳かで神聖な空気を感じさせ、その礼を尽くした所作は遺族に向けた優しさに溢れていた。
そして旅立ちの準備を終えた故人の姿を見て、感極まる遺族の悲しみと感謝の気持ちが、大切な故人との思い出にもより色を添え、おくりびととしての思いを観ている自分も共有し胸が熱くなる。
また、本作には故人と遺族の関係だけでなく、主人公の大悟と妻の美香との夫婦の絆も描かれていて、今目の前にいるかけがえのない人に、しっかりと自分の想いを伝えることの大切さと喜びを感じた。
また本木雅弘演じる世間知らずだけど純朴な大悟と、山﨑努演じる社長の納棺師としての気高さと重厚さの対比が素晴らしく、受け継がれる伝統の重みが伝わってくる。
紅一点、広末涼子演じいる妻 美香の、作品からはちょっと浮いた感じはあったけど、いじらしくも透明感溢れる笑顔は、作品に華を添える。
そんな素晴らしいドラマを、より一層色鮮やかに謳いあげる、大自然に包まれているような安らぎと温もりを感じさせる、久石譲作曲の『おくりびと ~memory~』の重厚なチェロの調べがとにかく素晴らしい。
大悟が遠く山頂を雪化粧した美しい山々をバックに、川端の土手でひとりチェロを一身に演奏しているシーンの染み渡る音色は、いつまでも記憶に残る屈指の名シーンだった。
ラスト、大悟の幼い頃に別れた父親との関係が、完璧に回収される日本人らしい人情が溢れる親子の強い絆に、もう大満足だった。
DVDの映像特典について
映像特典として、メイキング「おくりびとの、おくりびと。」が収録されている。
あと未公開映像として、エンドロールで流れる納棺の儀のフルバージョンも収録されてるが、これはもういいかな(^^;)
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