あらすじ
バルコニーから海が見える部屋、老婆が電話をしている。
「サルヴァトーレ・ディ・ヴィータをお願いします。私は母親です」
妹のリアは、電話番号を書き留め、兄は30年も帰ってきてないのに無駄だというが、母マリアは知らせなかったら悲しむといい、もう一度電話をかける。
深夜に帰宅したサルヴァトーレが寝室に入ると、ベッドで寝ていた恋人が母親から電話があったという。
「アルフレードという人が亡くなったそうよ」
サルヴァトーレはベッドに横になると、少年時代へと想いをはせる。
戦後間もないシチリア島のジャンカルド村には、唯一の娯楽として村人たちすべてを魅了した映画館のパラダイス座があった。
幼い頃からパラダイス座に母親に内緒で通っていたトト(サルヴァトーレの幼少期の愛称)の関心は、上映される映画以上に、数々の作品を映し出していった映写室と、そこで映写機を操作する映写技師アルフレードだった。
アルフレードは映写室に入りこもうとするトトを、危険だと叱っていたが、自分を慕ってくるトトに次第に愛情がわき、映写室に入ることを許すと、映写機の扱い方も教えるようになる。
しかしある日上映中のフィルムが燃えだし、映写室はアルフレードとともに炎に包まれる。
トトは気絶して倒れたアルフレードを、必死で助け出すが、パラダイス座は焼け落ちてしまう。
しばらくしてパラダイス座は再建され、アルフレードの代わりとして、映写技師となったトトのもとに、視力を失い妻に手を引かれたアルフレードが現れ、トトは駆け寄りアルフレードを抱きしめる。
やがてトトは青年へと成長し、初恋の相手エレナと交際を始めるが、徴兵され故郷を離れることに・・・。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:1988年/イタリア・フランス/124分
- 監督・脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
- 製作:フランコ・クリスタルディ
- 音楽:エンニオ・モリコーネ
- キャスト:フィリップ・ノワレ/ジャック・ペラン/サルヴァトーレ・カシオ/マルコ・レオナルディ/レオポルド・トリエステ
レビュー (ラストまでネタバレ)
ある小さな村にある映画館を舞台に、そこに集う人々を温かくそしてノスタルジックに描いた名作『ニュー・シネマ・パラダイス』をBlu-rayにて久しぶりに鑑賞する。
当時29歳という若さで製作された、このジュゼッペ・トルナトーレ監督作は、世界中の映画ファンから愛される作品となり、第62回のアカデミー賞外国語映画賞をはじめ、世界の数々の映画賞を受賞する。
日本でも1989年12月16日にシネスイッチ銀座で公開されるや、80年代のミニシアターブームを起こした一本として、40週連続公開という大ロングランを達成した。
物語は大好きだった映写技師のアルフレードが亡くなったことを知ったサルヴァトーレが、二人が出会った少年時代へと思いをはせ、回想シーンで展開していく。
幼い頃から映画館パラダイス座に母親に内緒で通っていたトトは、そこで映写機を操る映写技師のアルフレードと、時に映画好きの友だちのように、時に親子のような愛情を通わせる関係となる。
映写室でアルフレードと過ごした日々は瞬く間に流れ、やがて青年となったトトは、故郷にとどまらず外の世界をみて欲しいと願うアルフレードのすすめで、島を出て行くことに。
それから30年後、アルフレードの死を知らされたトトは、あれから一度も帰っていない故郷へ戻ることを決意する。
まず本作で一番印象に残るのは、アルフレード演じるフィリップ・ノワレのトトを見つめる包み込むような温かい眼差しと、トト役のサルヴァトーレ・カシオくんのやんちゃで子供らしい豊かな表情。
その二人が創り出す親子のような空気感が、実に微笑ましくずっと見ていたかった。
時は流れトトは青年となり、恋をするというエピソードが入ってくるんだけど、少年時代のトトとアルフレードのシーンがあまりにも心地よかったため、この青年のトトを演じた俳優さんの演技が未熟だったのか、この青年時代が恐ろしいほど魅力がないのが惜しい(^^;)
やがてそんな二人にも別れがやってくるんだけど、故郷のシチリアからローマへと旅立つ駅で二人が交わす、
トト「ありがとう、世話をかけたね」
アルフレード「ノスタルジーに惑わされるな。自分のすることを愛せ。子供の時に映写室を愛したように」
は、育んだ愛情が溢れた素敵なシーンだった。
そこからの30年、サルヴァトーレは故郷を顧みることなく、夢だった映画監督となって一見人生の成功者のようだけど、アルフレードの死により、顧みることになった自らの人生の中で、別れた後の空白の30年の話は語られないが、どうだったんだろう。
30年の時を経て帰ってきた故郷で、実際に見る変わり果てた景色のなかにある、村人たちが一つのスクリーンを一体となって笑顔で見つめたパラダイス座は、今はもう誰もいない廃墟に。
アルフレードの葬儀に集まってきた昔の面影を残す村人たちは、立派になったサルヴァトーレに対して臆してしまい、話しかけることもなく、サルヴァトーレ自体もまったく郷愁を感じていないように無表情のまま。
そんな意外なほどあっさりとしたこの帰郷シーンは、ふるさとを失ったものの喪失感と孤独を垣間見せる。
アルフレードの妻アンナから、アルフレードの形見だといって差し出されたフィルム缶を持って、サルヴァトーレはローマへともどると、ここからいよいよあのエンディングを迎える。
一人ローマの試写室で座るサルヴァトーレが見つめるスクリーンに、アルフレードの形見となったフィルムが上映される。
アルフレードの映写技師としての一生が、フィルムから切り落としたキスシーンの一コマ一コマに宿る映画への愛の結晶となって、時を超え鮮やかにサルヴァトーレの前で蘇る。
アルフレードが映画とサルヴァトーレに向けた熱い想いが結集した、映画史に残る最高のラストシーンに涙。
そしてそんなサルヴァトーレの姿を見ることで、いつしか自分の人生を振り返り、たまらなく愛おしいノスタルジーに浸っていく。
さらに一旦は断ち切った故郷へのノスタルジーから、改めて映画を観るということの喜びを感じ、涙するサルヴァトーレの姿に心が満たされると同時に、たまらなく切なくなってしまった。
最初に本作を観たのはもう何十年も前で、当時映画好きを語るには絶対に観ておかないといけない作品の一つということで、レンタルビデオを借りて観たことを思い出す(^^;)
また最初に公開された劇場版より50分長い完全版は、偶然出張先のミニシアターで上映されていて、劇場で観れたこと自体に感動したことも思い出す。
この完全版では、故郷へ戻ったアルフレードがエレナと再会するというエピソードが追加されていた記憶が(^^;)
まあこの完全版については、評価が別れる作品となったが、私はこのときはなんだか間延びした感じで、絶対に最初の短いバージョンの方が良かったと、偉そうに言いふらしてたなあ(^^;)
最初に公開されたオリジナルバージョンから、大幅にカットしたことで、深読みが出来る曖昧さが生まれ、観る人によっていろんな解釈を生む作品にもなったんじゃないかな。
そして見終わった後、今では見たい映画を家にいながら配信やDVDで簡単に見れる時代に、劇場まで出向いて見る意味を考えてみた。
劇場で見た映画を振り返るとき、映画自体の印象とは別にまず私の中に浮かんでくるのは、一人で観ることもあったが、あのときは誰と一緒に観たんだっけ。
劇場の中は満員だったろうかそれともスカスカだったろうかとか、時間はやっぱり朝一だったかなあ、なんて事をいろいろ思い出す。
あの映画の時は劇場内が爆笑だったなあ、それからあの映画の時はクライマックスで劇場内のあちこちで鼻をすする音が聞こえたよなあ、あの映画なんて一人で思う存分3回続けて観たとか。
常に違う環境で見ていることで、作品とともに当時の記憶が熟成されていることを改めて実感する。
劇場で見る意味が、こんな所にもあるように私は感じる。
特典映像のインタビュー集について
Blu-rayの特典映像には、監督のジュゼッペ・トルナトーレや撮影のブラスコ・ジェラートのインタビュー集が収録されていた。
最初のヨーロッパ映画祭の上映は拍手喝采だったが、公開されると大コケし、評論家たちからは酷評され、1週間で上映中止になったとのこと。
それでどこがいけなかったのかみんなで考え、上映時間を155分から2時間にしようということになり、そのバージョンでカンヌ国際映画祭で上映され、それが成功の第一歩になったとトルナトーレ監督が語っていた。
さらに、”私はアルフレードを、映画館の化身というイメージで描いているんだ”とも。
キャスティングについては、撮影が始まっても壮年期のトトを演じる俳優が決まらず、撮影の2日前にジャック・ペランに電話して、自分の服を持ってきてくれと頼んだとのこと(^^)
ただ、クリスタルディから3人のトトが似てないと指摘され、彼らを結びつけるものはなにもないのかと言われた監督が、
”あるよ、少年の眼差しだ”
と答えたことで決まった、なんて素敵なエピソードも。
さらにアカデミー賞の授賞式の時のエピソードとして、発表後に立ち上がり、製作のクリスタルディと舞台に向かうときに、像を受け取るかスピーチかどっちにするかという話になったとのこと。
トルナトーレは出発前にフェリーニに、
”もし受賞したら君が像を受け取れ、クリスタルディはコピーを君に渡すかも知らない”
と聞かされたので授賞式では自分が像を受け取り、クリスタルディがスピーチしたことで、オリジナルは私が持っているよと、楽しそうに語っていた。
また初回限定版の特典として、14ページの解説がかかれているリーフレットが封入されていた。
字が小さくてめちゃくちゃ読みにくかった(笑)
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