映画『バベットの晩餐会』レビュー ★★★★☆

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あらすじ

 19世紀後半、デンマーク・ユトランド半島の辺境にある海辺の小さな村で、質素に慎ましく生活を送っているマーティーネとフィリパの老姉妹。
二人は僅かな収入のほとんどを善行に費やし、牧師だった父の精神を引き継ぎ、今でも集まった村人達とともに聖書を読んだり、賛美歌を歌っていた。

そんな姉妹にはバベットというフランス人の召使いがいた。
なぜ姉妹の家にバベットがいるか、物語は時をさかのぼる。

 厳格だった牧師の父のもと、信仰心とともに美しく成長した姉妹に、外の世界から二人の若い紳士が現れる。

 騎兵隊の士官ローレンス・レーヴェンイェルムは、駐屯所で借金を負うなどして、父親から心を入れ替えろと、3ヶ月ほど叔母の家へ行くようにいわれる。
叔母の家で暮らすようになったローレンスは、乗馬で遠出をし偶然訪れた村で、マーティーネに一目惚れしてしまう。

マーティーネに会うために、牧師の家へ足繁く通うようになるが、敬虔な村人達を見るにつれ、次第に自分の影が薄くなるように思え、人生はつらくこの世に不可能なこともあると知り、マーティーネに別れを告げ去って行く。
駐屯所へ戻ったローレンスは、これからは前向きに生きようと軍務に没頭し、いつかひとかどの人物になると誓い、王妃の侍女と結婚する。

 それから一年後、今度はパリの大歌手アシール・パパンが、療養で村に現れる。
一人海を見ていると憂鬱な気分になり、急に年老いて引退の潮時のような気がした時、遠くから賛美歌 が聞こえてきた。
教会へ入ったパパンは、そこでフィリパの美しい歌声を聞き、彼女こそディーバだ確信し、歌のレッスンをしてあげたいと父親に申し出る。
フィリパとのレッスンは、パパンに希望を与えてくれたが、突然フィリパは稽古を止めたいので、父からパパンへ伝えて欲しいという。
伝言を読んだパパンはすぐ船に乗り、パリへと帰っていった。

 それから35年の月日が流れた1871年9月のある嵐の夜、姉妹の元に一人の女性が訪ねてくる。
疲れ切った表情を浮かべる女性を見て、姉妹は家へ招き入れると、女性は一通の手紙を手渡す。
その手紙はパパンからのもので、そこには

”手紙を持参したのはバベット・エルサン夫人で、革命により皇后と同じくパリを追われ、彼女の夫と息子は殺され、夫人も危うく処刑されるところだった。
船のコックをしている夫人の甥が逃亡を助け、デンマークに知人はいないかと言われすぐにあなたを思い浮かべた”

と書かれていた。

姉妹は家政婦を雇う収入は無いといったんは断るが、涙ながらにここに置いてもらわなければ後は死ぬだけですと訴える彼女を、温かく向かい入れる。

 そしてバベットが来てさらに14年の歳月が流れる。
歳とともに少しずつ短期で気難しくなった村人達は、時に集会が口論となりいさかいの場となっていた。

そんなある日、フランスから一つの手紙がバベットに届く。
それはなんと宝くじで1万フラン当たったという手紙だった。
バベットは姉妹に向かって、間近に迫っていた彼女たちの父の生誕100周年を祝う晩餐会の料理を、ぜひ自分に作らせて欲しいと懇願する。

作品データ

  • 製作年/製作国/上映時間:1987年/デンマーク/103分
  • 監督/脚本:ガブリエル・アクセル
  • 原作:カレン・ブリクセン
  • 音楽:ペア・ノアゴー
  • キャスト:ステファーヌ・オードラン/ビルギッテ・フェダースピール/ボディル・キュア/ジャン=フィリップ・ラフォン

レビュー (ネタバレあり)

 20世紀のデンマークを代表する女流作家カレン・ブリクセンの同名小説を、同じくデンマークのガブリエル・アクセル監督が映画化した『バベットの晩餐会』をBlu-rayにて鑑賞する。

評論家から高い評価を受けた本作は、1989年第60回アカデミー賞の最優秀外国語映画賞を見事受賞する。

 19世紀のデンマーク・ユトランド半島の辺境にある小さな村で、清貧に暮らす姉妹のもとに、フランスから亡命してきた女性バベットがやってくる。
姉妹の女中として何十年と共に暮らしていたバベットに、ある日パリの親友が毎年買っていてくれた宝くじで、1万フランが当たったという手紙が届く。
もと天才料理人だったバベットは、姉妹の牧師だった父親の生誕100周年のお祝いの晩餐会で、その1万フランをすべて使い、村人達に豪華なフランス料理を振る舞う。

 信心深く厳格な牧師の父親により、何も疑うこともなくずっと神に仕えることを日常として育ったマーティーネとフィリパの姉妹。
社交界に出ることもなく、亡くなった父の遺志を継ぎ静かに慎ましく生きる姉妹は、男性を愛すること、そして自分の才能を開花させることを自ら拒み、いつしか老女となっている。

彼女たちの人生における選択は、正しかったんだろうかと観ている方は考えているんだけど、姉妹はそんな人生を一見みじんも後悔することなく、むしろ幸福を感じて生きている。

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そして彼女たちへ幸せなサプライズが起こる事を期待して観ているところへ、バベットが現れる。

 物語の後半は、バベットが姉妹の父親の生誕100周年のお祝いのために、かつての料理の腕を振るうという展開になる。

料理の材料として持ち込まれた大きなウミガメや牛の頭をみて、悪夢にうなされたマーティーネが、村人達に涙ながらに何を食べさせられるか分らないとかいうもんだから、それを聞いた村人達が全員味覚がないみたいに振る舞おうと手をつなぎ、ささやくような声で賛美歌を歌い出すシーンの可笑しさといったら(笑)

【ここからネタバレ】





本作の約3分1をこの晩餐会の食事シーンが占めるんだけど、ここでバベットが料理するクラシカルなフランス料理は、「ウミガメのスープ」「ブリニのデミドフ風」そして「ウズラとフォアグラのパイ詰め石棺風」など、格式ある正統派フレンチの素晴らしさは、感動すら与えてくれた。

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この晩餐会には、サプライズとしてかつての騎兵隊の士官ローレンス・レーヴェンイェルムが将軍となって参加することになるんだけど、何を食べさせられるか分らないまま食べている村人達に、いかにこの料理が素晴らしく、グラスに注がれるワインやシャンパンの貴重さを、伝える役目を果たしていく。

そして晩餐会の中でローレンスが、人生において必ず選択しなければならないことがあり、その結果その選択が正しかったのかといつまでも考えることより、拒んだことや捨てたものもいずれは取り戻せると、心穏やかに受け入れることが大切なんだと(たぶんそんな感じの意味だったと・・・)語るシーンに、心が癒やされていく。

マーティーネの勘違いにより警戒していた村人達は、バベットの料理を食べていく内に次第に夢中になり、いつしかお互いを慈しみあい、幸福を感じていく。
食したもの達の心を溶かし、神から与えられたごとくの幸福感に満たされた村人達は、晩餐会が終わり外に出ると、お互いが手を取り合い、井戸を囲い輪になって歌出す。

”ハレルヤ!”

最初手を引かれながら入ってきた将軍の叔母が、帰り際馬車に乗り込むとき、力強く颯爽と乗り込むシーンもお見逃しなく(^^)

人を愛すること、愛を伝えることの幸せ。
神様に使えることの幸せ。
才能を発揮することの幸せ。
ささやかだけど、それぞれが願う幸せがかなえられたバベットの晩餐会。
一時だけど、その幸せを観ている方も共感することの幸せを感じていく。

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ただ本作は素晴らしい料理を食べて、幸せになるというだけの作品ではない。
晩餐会が終わった後に、強烈なメッセージを発信する。
素晴らしい料理を提供したバベットだったが、結局パリには戻れない。
当然達成感に満たされているはずのバベットに、喜びの表情はない。
そんなバベットが、アシール・パパンがいった言葉を代弁する。

”世界中の芸術家の心の叫びが聞こえる
「私に最高の仕事をさせてくれ!」”


せっかくの才能を持ちながら、それを発揮できる機会や場所が与えられない者たちが抱える、人生の理不尽さが、切なくも胸を締め付けてくる。

特典映像のインタビューについて

 Blu-rayの特典映像には、予告編の他にバベット役のステファーヌ・オードランのインタビューが収録されていて、本作のいろんなエピソードを知ることが出来た。

アカデミー賞のためにニューヨークやロサンゼルスでプロモーション活動をしたが、記者達はいい映画だが賞は取れないといわれ、誰もが今年はルイ・マル監督の作品が「さよなら子供たち」で決まりだと自分たちもそう思っていたところでの受賞だったので驚きだった、なんてことを語っていた。

あと撮影現場にはデンマーク人のシェフがいて、その人がキャビアやトリュフを持ってきたが、総て持ち帰ってしまって私たちには何もなかった、なんて楽しいエピソードも(笑)

ナレーションのように入ってくる語りに、人生の教訓やはっきりしないエンディングも含め、何か寓話を読んでいるような、不思議な魅力に溢れた作品だった。

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Prime video

このレビューをアップした時点で、残念ながらPrime videoでは配信されていません。(2023/4/8)

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