あらすじ
デンマーク・コペンハーゲン近郊のとある町の教会に、新たに代理牧師として赴任してきたアンドレアス(アンダース・W・ベアテルセン)は、女性に教会の中を案内してもらっている。
女性は最近亡くなったアンドレアスの妻のお悔やみをいい、神学校で地域活動をしていたのでよく知っているという。
丁度そこにいた前任のレッドマン牧師にアンドレアスは挨拶をするが、彼は無言で立ち去っていった。
牧師館にはまだレッドマン牧師が住んでいたため、ホテルを手配しているといわれる。
そのホテルのフロント受付をしているヨーゲン(ピーター・ガンツェラー)は、上司からレストランで支配人をしている親友のハル・フィン(ラース・コールンド)の素行が悪いため、クビだと伝えるように指示される。
ホテルにやってきたアンドレアスに、ヨーゲンは親友をクビにすることは出来ないと愚痴をこぼし、部屋のカードキーを渡す。
パン屋に現れたハル・フィンは、店に入るなり店員のオリンピア(アネッテ・ストゥーベルベック)に「ラム・トラッフルを8個くれ」とイタリア語で吐き捨てる。
オリンピアがホテルのルームサービス用しかないと断るが、睨み付け強引に注文する。
ヨーゲンはレストランで客を怒鳴りつけているハル・フィンに、クビになったことを告げられず、替わりに美容院へ行ったらどうかという。
ヨーゲンの紹介で美容院へやってきたアンドレアスは、丁度先客の夫人が美容師のカーレンへ短すぎると苦情を言って出て行くところに鉢合わせするが、何事もなかったようにアンドレアスは席に座る。
そこに店の外に立つ人影が見え、あわててドアを開けるカーレンに、アルコール依存症で入院していたはずの母親は、退院したが財布を盗まれてお金がいるので来たという。
レジのお金を渡され出て行く母親を見送ると、気を取り直してカーレンはアンドレアスの髪にシャワーをあてる。
仕事を終え父の家にやってきたオリンピアは、父が待っていたトラッフルは売り切れてなかったと伝えると、オリンピアを「このウスノロが」と激しく罵倒する。
母が入院する病院へ来たカーレンは、病室のドアを開けると部屋の隅でうずくまる母親に慌てて駆け寄る。
カーレンは失禁していた母親をシャワー室に連れて行き着替えさそうとするが、頼んでいた酒を持ってきていないと暴れ、カーレンを罵る。
今の生活を変えるためにイタリア語の勉強をしたいと、市の主催する週に一度のイタリア語初級講座の教室に入ってきたオリンピアは、ガラガラの教室の中に講師マルチェッロと、ヨーゲンやハル・フィンなど生徒が5人しかいないのを知り戸惑う。
少ないながらも楽しそうにマルチェッロに続いてイタリア語を復唱する生徒たちだったが、突然マルチェッロが胸を押さえて苦しみだし、その場に倒れてしまう・・・。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:2000年/デンマーク/112分
- 監督・脚本:ロネ・シェルフィグ
- キャスト:アンダース・W・ベアテルセン/アネッテ・ストゥーベルベック/ピーター・ガンツェラー/ラース・コールンド/サラ・インドリオ・イェンセン
レビュー
”大人になっても恋はできるの?”
第51回ベルリン国際映画祭で銀熊賞をはじめ全4部門を受賞し、世界中で大ヒットとなった『幸せになるためのイタリア語講座』を観る。
ただ私は受賞したことも知らず、まったく予備知識なしにただいかにもっていうこの魅力的なタイトルだけでDVDを購入。
物語は仕事がうまくいかなかったり、恋愛に臆病であったり、家族のことで悩んでたりする男女6人の姿を淡々と映し出していくところから始まる。
その顔はどれも疲れ切って、輝きも失っていた。
そんな男女6人が引き寄せられるようにイタリア語初級講座の教室に集まってくる。
そしてそこで出会った6人はやがてそれぞれの幸せに向かって歩き出していく。
まずフランス映画と思っていたのに、たぶん初めてだろうデンマーク映画だった。
ヨーロッパ映画は大人の恋の映画が上手いというか結構多いが、本作も愛によって幸せをつかんでいくという展開に。
”ままならないのが人生”
『ローマの休日』でこんなセリフがあるが、なにかとネガティヴになりがちな私にとって、こういうポジティヴな気持ちにしてくれる映画は大好きなのだ。
大切なものを失ってしまい、人生はつらいものと思ってた人たちが、”イタリア語”というワードをきっかけに夢や希望を見つけ出していく。
代わり映えしない日常の中でくすぶっていた人生も、あることをきっかけで下した小さな決断によって幸せの歯車が動き出す。
それはやはり人と人との出逢いであり、誰かを愛すること。
始まってしばらくは厳しい現状に観ている方の気分も重くなっていくが、次第にハル・フィン以外(爆)のすべての登場人物たちに、幸せが訪れるのを願いながら見届けていくことになる。
そして誰もが登場人物が抱える問題に共感できてしまうエピソードに、どこにでもいそうなごく普通の登場人物たちの誰かと自分を重ね、深く心を引かれていく。
なかでも私は今の生き方変えようと健気にがんばるオリンピアと、若い娘に恋をして戸惑うホテルのフロント係のヨーゲンに強く肩入れしてしまう(^^)
そしてハル・フィンだけは止めた方がいいと、カーレンに強く言いたい(笑)
キャスティングについては、やはり一人も見たこともない俳優さんばかりだったが、脚本を元に即興的にシーンを重ねていくロネ・シェルフィグ監督の独自の撮影手法に応えるように、個性的なキャラクターをナチュラルに演じ、それぞれが愛すべき魅力を溢れさせていた。
あっさりしたラストも私的には心地よく、タイトル通り幸せな気分に浸れました。
というか、フランス映画と較べても全体的にかなりあっさりして見やすく、ユーモアもあり他のデンマーク映画がとっても観たくなった。
まあ今一つもタイトルが浮かばないけどね(笑)
デンマーク映画でオススメって他にどんな作品があるのかなあ~・・・。
DVD特典映像について
DVDの特典映像に27分ものメイキング映像が収録されています。
私はここで初めて本作のロネ・シェルフィグ監督が女性だということを知ります(^^;)
監督や出演者のインタビューシーンが中心となったメイキングで、まず出演者の誰もが監督の話はいつもユーモアに溢れ、時には下品な冗談もいい現場が明るかったと、楽しそうに語ってるシーンが微笑ましかったです。
そして作品のテーマについて、ロネ・シェルフィグ監督が
”「この作品は、社会的メッセージというより精神的なメッセージを含んでいるわ。
人生は辛いものと思っていた人が希望を見いだす、ごく普通の人たちの物語よ」”
と語っていた。
あとインタビューシーンの中に時々”ドグマ”という聞いたことないワードが出てきたので、ちょっと調べてみる。
それは「ドグマ95」という、デンマークの映画人たちがハリウッドの大作映画の娯楽性を重視した大袈裟な演出や特殊効果などの撮影手法や表現を否定し、「純潔の誓い」なる映画作りにおける独自ルールを10個を決め、娯楽性を伴わない純粋な映画を生み出すことを目的としたもの。
このルールの中には、すべてスタジオのセット撮影を禁じロケーションで撮影とし、カメラは必ず手持ちで効果音を入れないとか、回想シーンも禁止などの今では考えられない禁止事項が並んでいた。
ただそんな厳しい条件をすべて守らないといけないというわけではなく、この内容に共感した上で制作し、制作者が自らそれを宣言すれば、「ドグマ95」の映画を名乗ることができたとのこと。
ドグマ95のもと製作された「セレブレーション」や「ミフネ」は世界の映画賞を受賞し、デンマーク映画を世界に知らしめた。
本作のオープニングで出てきた証明書みたいなものは、この「ドグマ95」の映画だと宣言するものだったんですね。
あと特典映像にヨーロッパ映画としては珍しく未公開シーンやNGシーンが入ってた。
俳優たちの生の表情が見れてとっても得した気分になり、さらにちょっぴり幸せな気分になれた(^^)
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・Prime video
このレビューをアップした時点で、残念ながらPrime videoでは配信されていません。(2022/08/06)
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