あらすじ
とある精神病院へ一人の男が護送されてくる。
拘束着を着せられた男ジョン・トレント(サム・ニール)は、両脇を二人の看護師に抱えられながら病院へ入ってくると、激しく暴れ抵抗するが、9号室へ収監される。
ドアの窓から「俺はイカれてなんかいない」と叫ぶが、隣から同じように監禁された並びの部屋から「俺も同じだ!」と言う何人もの叫び声が上がる。
その騒ぎを打ち消すように大音量で流されるカーペンターズの歌を聞かされ、トレントはたまらずしゃがみ込んでしまうが、急に音が消えていき、監禁室の中の明かりが暗くなっていった。
そこにドアの窓をノックする手が見えたので、ドアに近づき窓の外をのぞき込むトレントだったが、その後ろを黒い人影が横切る。
トレントは振り返り
「こんな終わり方があるのか」というと、黒い影は
「まだ終わりじゃない、本を読め」という。
その瞬間、ドアの窓ガラス割れ、頭の中に教会のような建物、血みどろのオノ、そしてモンスターの映像が流れ込んできた。
その日の夜、外で同じような症状で何人も入院しているという事態をうけ、ウレン博士という精神科医がトレントを訪ねてくる。
トレントの部屋に入ると、部屋の壁一面にはクレヨンで十字架が描かれ、ここからだしてあげたいというウレンに、ここにいるとトレントは答える。
ウレンにタバコをもらい、一息吸ったトレントは
「あんたは私の”彼ら”を聞きたいんだろう」
といい、
保険のフリーの調査員だった自分に、ある日出版社の社長から二か月前に消えた人気ホラー作家サター・ケーンの調査を依頼されたことから、総てが始まったと語り始める・・・。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:1994年/アメリカ/96分
- 監督:ジョン・カーペンター
- 脚本:マイケル・デ・ルカ
- 音楽:ジョン・カーペンター/ジム・ラン
- キャスト:サム・ニール/ジュリー・カーメン/ユルゲン・プロフノウ/チャールトン・ヘストン/デビッド・ワーナー
レビュー
“覗くな、狂うぞ。”
今世紀最大の怪奇小説の巨星といわれたハワード・フィリップス・ラヴクラフトの、異色ホラー小説の世界をジョン・カーペンターが映画化した『マウス・オブ・マッドネス』をBlu-rayにて鑑賞。
本作はジョン・カーペンター監督作の、「遊星からの物体X」と「パラダイム」に続く黙示録三部作の一本となっている。
久しぶりに観たので、一度観ているはずだけど、どういう訳か後半のあたりがまるで記憶にない。
退屈で眠ってしまったんではないかという不安もよぎったが、まあ記憶にないことで、とりあえず初めて観るようなドキドキ感を楽しみながら再見することはできた。
保険の特別調査員ジョン・トレントの下に、出版社の社長から二か月前に消えた人気ホラー作家サター・ケーンの調査を依頼される。
手がかりを得るために、初めてサター・ケーンの本を手にしたトレントは、その日から不気味なモンスターに襲われる悪夢を見るようになる・・・。
この映画は観客を主人公同様に、狂気の世界へと誘う作品である。
この作品のチラシにはなんと、
「精神不安定の方は決してご覧にならないで下さい。確実に狂います!」
なんていう警告まで載っているのだ。
何を大げさなと思うが、その手の映画としてすぐに私が頭に浮かべる作品として、クローネンバーグの「ビデオドローム」があるが、本作はそれと同様な狂気を、カーペンター流のB級テイストで仕上げたような作品である。
まずオープニング早々に、主人公と同じように観ている方も、何が起きてるのか分からないという状況へ、突然放りこまれる突き放し感いい。
その狂気と恐怖の映像は、始まってすぐに現れる。
それは街中の喫茶店で保険会社の社長とジョン・トレントが話をしているところに、突然オノを持った男が現れ、殺されそうになるシーンだ。
主人公とエージェントがお店の窓際のテーブルで打ち合わせをしているんだけど、その窓の奥の方から斧を持った男がフラフラと道路を渡ってゆっくりと近づいてくる。
逃げ惑う人々をよそに、斧を持った男はゆっくりと主人公の方へ近づいてくる。
主人公は話に夢中になっていて、窓の外の様子にまったく気が付いていない。
血を流し見開いた狂気の目に、振り上げられた斧がウィドウのガラスを砕く。
倒れ込んでいるトレントに向かって男が首をかしげながら言う。
「ケーンを読むのか」
オノが振り下ろされる寸前、駆けつけた警官に男は射殺される。
普段の日常の中で突然遭遇する異常さがMAXの凄まじさに、もうこの悪夢にどっぷりと飲み込まれる。
相変わらずカーペンター作品は導入部が秀逸だ。
そして次第に悪夢と現実の区別がつかなくなっていく主人公とともに、不条理な世界に囚われ、観ている方も混乱させられていくなか、自身にも現実感が薄れていくような不気味な感覚に包まれていく恐怖。
さらに唐突に現れる物体Xを思わせるグロテスクなモンスターもいいが、やはり暗闇の中を白髪の老人が自転車をこいでいるとか、血だらけの犬を恐ろしい形相で子供たちが追いかけているという、なんとも気味悪いシーンが脈力無く放り込まれ、ますます混乱していく(^^;)
そして後半に入っていくと、さらに加速する不条理に振り回されながらも、なんとか結末を色々と探らせてくれる楽しさもあるが、まあ最悪のエンディングを予感させていく。
ただクライマックスへ向けての、あわただしいほどの端折り感がどうにも惜しい。
ラスト前の魔界のモンスター達に追いかけれるシーンなどの、あまりにも幼稚なB級感がカーペンターらしくなく、肝心のクライマックスで事態はいきなり黙示録という大風呂敷が広げられるというラストのバタバタ感は、カーペンターらしいといったららしいんだけど。
それでも見終わった後、終わりのない悪夢を繰り返していく主人公に理性を混乱させられる中、今自分がいるこの現実の世界が実は現実ではないとしたら・・・、なんてとんでもないことを考えてしまった。
さらにこのいいようのない悪夢を、まだ本作を観てない人に感じて欲しいという願望と、カーペンター作品は悲観的なラストであっても、また見たくなるという中毒性を感じさせる作品が多い中、まったく救いのない本作は当分観たくないという気持ちにもなってしまった。
とりあえず魔界の扉を開く助けをした作家のサター・ケーンには、けりをつけて欲しかったなあ。
だいたい、現実に存在しない町に迷い込んで、宿泊することになった宿のおばあちゃんの女主人が、裸にされたたぶん夫のおじいちゃんを床に転がして虐待してるって、どういう悪夢なんだ(爆)
Blu-rayの特典は、オリジナル劇場予告編とジョン・カーペンターと撮影のゲイリー・B・キッビによる音声解説が収録されていた。
この監督やキャストが、作品を観ながらコメントを入れていく音声解説って、この音声を聞きながらまるまるもう一度映画をみる必要があり、かなりの時間を要するんで、実はあまり聞いたことがない。
ただ今回はカーペンターということで、ちょっと聞いてみたが、撮影時に光をどれくらいの強さで、どんな感じに当てていたかみたいな話ばかりで、早々に聞くのを止めてしまった(笑)
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