あらすじ
一緒にギリシャ旅行を計画していた友人カロリーヌから突然行けなくなったとの電話を受け、数ヶ月前に恋人とも別れたばかりのデルフィーヌは、夏のヴァカンスを前にひとりになり途方に暮れる。
デルフィーヌは他の友人を誘ってみるが、既に別の友人との予定があり、姉の家族はアイルランドへ行くが一緒にどうかとの誘いも、夏なのでもっと暑いところへ行って日焼けもしたいと断ってしまう。
そんな時友人たちと4人で集まって食事をしていると、デルフィーヌの話になり友人の一人がひとりが寂しいんだったら思い切って一人旅や団体旅行とかへ行ったらとアドバイスするが、デルフィーヌは寂しくないし自分を責めないでと猛烈に反発してしまう。
それでも自分は独りぼっちだと落ち込むデルフィーヌを、友人のマヌエラは優しく慰めシェルブールへ一緒に行こうと誘う。
ただシェルブールを訪れたデルフィーヌは、集まった友人の家族たちと一緒に食事をしている中、出された食事に対して肉は食べれないと断ると、さらにみんなに肉食を辞めることのメリットを切々と訴えていた。
気がつけばひとり友人の家族たちからも離れ、海へ向かうと誰もいないところで孤独を噛みしめることになり泣いてしまう。
そしてパリへ戻るというマヌエラと一緒にシェルブールを去ることに。
パリに戻ってきたデルフィーヌは、計画もなくぶらぶらと街を歩いていると、偶然カフェのテラスに座っていた懐かしい友人から声を掛けられる。
彼女は丁度義理の兄の部屋が空いてるので使って欲しいとデルフィーヌへ告げる。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:1986年/フランス/98分
- 監督・脚本:エリック・ロメール
- 音楽:ジャン=ルイ・ヴァレロ
- キャスト:マリー・リビエール/リサ・エレディア/ヴァンサン・ゴーティエ/ベアトリス・ロマン
レビュー
ヌーヴェルヴァーグの重鎮エリック・ロメール監督作『緑の光線』をPrime videoにて鑑賞する。
夏のバカンスを前に、友人からの突然のキャンセルによりひとりで過ごすことになってしまったデルフィーヌは、一夏の素敵な出会いを夢見るが、ひとり旅も団体旅行も嫌だと心配する家族や友人たちを戸惑わせる。
友人に誘われシェルブールに行ったり、別れた彼氏のいる山や友人に紹介された別荘へひとりで向かうが、気がつけばひとり海をみて孤独を噛みしめていた。
そんな時老人たちが集まっているところに通りかかり、彼らが話しているジュール・ヴェルヌ『緑の光線』の話に心を引かれる・・・。
夏のバカンスでの恋を夢見てひとり迷走する若い娘の姿を、日記の形式で描いた物語。
ヌーベルバーグの精神に則りロメール監督は、無名の女性スタッフ3人という少人数の編成で、ハンディの16ミリカメラで即興的にロケ撮りが行われたとのこと。
登場人物たちに降り注ぐ作りものではない優しい自然の光や、吹き付ける風になびく髪、そしてどこかから聞こえてくる雑踏の音や話し声に、観ているだけで現地の空気を肌で感じていく。
そしてロケ撮影のこだわりが、こんなところにあるんだろうと勝手に感心する。
あわせて即興演出に同時録音という製作手法は、まるで実際に起きている日常の出来事を覗いているようにどこまでもリアルで、アドリブのように自然体で交わされる身振りや会話は登場人物たちを身近に感じさせる。
まさしくハリウッド映画にはない独自の撮影手法により、画面からリアルに登場人物たちの人柄や景色の美しさがより濃く伝わってくる。
登場人物たちといっても、ほぼ主人公のデルフィーヌを中心に、その他関わってくる人物たちという位置づけなんだけど、まあこのデルフィーヌというキャラクターのこじれ具合がいい(^^)
どこかで恋人に出会えることを夢見ているんだけど、恋への理想が高く臆病なこともあり、現れる男たちをなんとなく拒否してしまう。
あげくは「私は男を信じないの、酒やバカなことに誘う男たちとは会うけど、みんな寝るのが目的よ」なんてうそぶく始末。
もう観てる間、なんとかいい男出てこいって思いながら観てるんだけど、そう簡単には見つからず、この男は止めた方がいいんじゃないって奴ばっかり寄ってくるんだよねえ(笑)
そんな自分をかまって欲しいんだけど、一人孤独を感じ誰もいないところで泣き出してしまうという情緒不安定ぶりなど、なかなかのこじれ具合を見せてくれる。
ただ観ている方も自分の中にもある、このリアルなこじれを共感させられるっていうところが、本作の魅力かも(^^)
なかでも一番面白かったのは、友人の家族と一緒に食事をしている所。
肉料理が出されると、デルフィーヌは平然と自分との距離が近い動物の肉には拒否反応があり食べないと言い、さらに普段はシリアルや距離が遠い、軽やかで空気を感じさせる野菜を食べてると言っちゃうところ(爆)
とどめに肉食を辞めれば経済的にもいいとダメ押し(^^;)
正直なだけなんだろうけど、この空気を読めないこじれ具合もまたいい(^^)
めんどくさい女性だなあ~、なんて思いながらクスクス笑って観ていながらも、ラストは絶対に素敵な出会いが待っているとなぜか予感させるところもまたいいんだなあ。
そんな中偶然老人たちが話をしているところを通りかかったデルフィーヌが、”緑の光線”という言葉を耳にする。
本編の中で”緑の光線”とは、大気が澄んだ状態で、太陽が水平線沈む瞬間最後の段階に明るい緑の光が見える現象だと説明され、ジュール・ヴェルヌの恋愛小説『緑の光線』では、
”太陽が沈む瞬間に放つ緑の光線は幸運の印”
だと老婦人が語る。
そしてデルフィーヌが最後に奇跡のように目の当たりにする”緑の光線”の神々しさに、観ていた人全員がきっとこうつぶやいていると思う。
「よかったね、デルフィーヌ」
ちょっと足踏みしている不器用な若い娘が、一夏のヴァカンスで出会いを求めて右往左往しているだけの作品なんだけど、不思議な魅力で惹きつける素敵な作品だった。
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