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映画『リトル・ダンサー』レビュー ★★★★★

出典元:https://www.amazon.co.jp/

あらすじ

 1984年、イングランド北部の炭鉱町ダーラム。

 この町に暮らす11歳の少年ビリー・エリオット(ジェイミー・ベル)は、レコードをかけ流れてきた音楽に合わせてベッドの上を跳びはねていたが、急いでキッチンへ向かい祖母の朝食の準備を始める。

熱々のゆで卵とトーストをトレーに載せ隣の部屋に入ったビリーは、ベッドが空になっていることに気づき、慌てて外へ駆け出す。

辺りを見回し、森の中を徘徊する祖母を発見したビリーは駆け寄ると、怯える祖母に「帰ろう」と優しく声をかけ、手を引いて家に連れて帰った。

 翌朝、「今日はみんなでピケ(スト破りの就労阻止する)を張ることになってる」と父ジャッキー(ゲイリー・ルイス)をせかす兄トニー(ジェイミー・ドラヴン)は、慌ただしく出かけていく。

父はため息をつき、すぐ横でピアノの練習をしていたビリーに「やめろ!」といい、部屋から出て行くと、ビリーは寂しそうにピアノの上に飾られた家族写真の中の母を見つめる。

 町の体育館へ向かったビリーは、入り口で親友のマイケルにボクシングをやらないのかと誘うが、人を殴ることの何が面白いんだと断られる。

リングに集まった生徒たちに、コーチは体育館の1階をスト中の人たちのために炊き出しで使うので、ここの半分をバレエ教室に使わせることになったと告げると、すぐにビリーにリングに上がるようにという。

リングに入ってもなかなかパンチを出さないビリーに、コーチは「女か!」と怒鳴りつけるが、遠くで見ていた父の「パンチだ!」という声を聞き向かって行くが、相手のパンチを受けリングに倒れ込み、父は頭を抱える。

コーチの指示により居残り練習をさせられるビリーだったが、隣のバレエを練習している方から聞こえてくる女性教師の指導の声とピアノの音に、自然に体が反応する。

ビリーは何かに引き寄せられるように、女子たちがバレエの練習している所までくると、気がつけばバーを掴み一緒にステップの練習をしていた。

それを見ていたバレエ教師のウィルキンソン(ジュリー・ウォルターズ)は、靴のサイズを聞きトウシューズ をビリーに与え、一緒に練習に参加させる。

 その日からビリーは父には内緒でバレエの練習を続けていくが・・・。

作品データ

  • 製作年/製作国/上映時間:2009年/イギリス/111分
  • 監督:スティーブン・ダルドリー
  • 脚本:リー・ホール
  • 音楽:スティーヴン・ウォーベック
  • キャスト:ジェイミー・ベル/ジュリー・ウォルターズ/ゲイリー・ルイス/ジェイミー・ドラヴン/ジーン・ヘイウッド

レビュー

 イギリス北部の炭鉱の町に住む少年が、バレエに魅せられプロのバレエ・ダンサーを夢見て奮闘し、成長して行く姿を描いた、スティーブン・ダルドリー監督の第一作目となる『リトル・ダンサー』をBlu-rayにて鑑賞。

本作はアカデミー賞監督賞ノミネートをはじめ、英国アカデミー賞では主演男優賞・助演女優賞・英国作品賞受賞し、世界中で絶賛される。

 物語の背景となる1984年のイギリスでは、当時の石炭庁総裁が採算の取れない炭鉱を閉鎖し、約2万人もの炭鉱夫の合理化計画案を公表し、合理化に反対するストライキ派と反ストライキ派の間で死者も出るほどの激しい抗争が起こっていた。

ビリーの家でも、閉鎖に揺れる炭鉱で働く父と兄もストライキに参加し、厳しい生活環境の中にあったが、そこで偶然ビリーはバレエと出会う。

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 まずストまっただ中、未来に希望が見出せない閉塞感に包まれた大人たちの世界と、そんな厳しい環境の中でも感情のままに動く無邪気な子供たちの世界とが対照的に描かれ、大人たちの不安とのしかかる重圧を際立たせる演出が上手い。

 父親から譲り受けたグローブを手にボクシング教室に通っていたビリーだったが、殴り合うことに楽しさを見いだせなかったところに、ピアノに合わせてバレエの練習をする少女たちを見て一瞬で心を惹かれてしまう。

それは自分がやりたいことが見つかった瞬間であり、自分が夢中になれることに出会った瞬間だった。

そしてそんな誰もが憧れ熱望する奇跡のような瞬間に、ビリーはバレエ教師のウィルキンソンに出会い、才能を見出され目指す道を指ししめられる。

人生において偶然に交差する人との出会いは、不条理な奇跡のように未来を照らし、夢へ向けて羽ばたかせる。

 ビリーを演じるジェイミー・ベルは、祖母や母がバレリーナだったこともあり、6歳でバレエのレッスンを始めていて、まさしく本作の主人公にピタリとはまっていた。

バレエと出会ったビリーそのままに、抑えきれない溢れ出る活力をリズムに乗せ、テクニックを超えて見せるエネルギッシュなダンスは、観るものの感情を強烈に揺さぶっていく。

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 ビリーのバレエダンサーとしての才能を確信したウィルキンソンは、ロンドンにあるロイヤル・バレエ学校のオーディションを受けることを勧めるが、ボクシングを続けて欲しい父に大反対される。

 本作はそんな厳しい環境の中でも夢に向かってひたむきに励んでゆくビリーの成長を見守り、エールを送りながら観ていくことになる。

でも私はそれ以上に、ビリーを囲む父ジャッキーと兄トニーに祖母の家族愛を始め、すべての登場人物が丁寧に、そして印象的に描かれているところに心を惹かれた。

エリオット家の他バレエ教師ウィルキンソン、ビリーの親友のマイケル、そして炭鉱夫たちも含め、それぞれのキャラクターは極力セリフを廃し、繊細な表情や仕草で表現する複雑な感情によって、すべてのキャラクターを愛おしくさせる。

 バレエを諦めきれないビリーは内緒で練習を続け、あとはビリーと父とのもどかしい確執が解消されることを願うのみだが、ここからの展開がさらに素晴らしい(^^)

【ここからネタバレあり】





 父とビリーはわかり合えないまま気まずい日々を送っていたが、クリスマスの夜、体育館で父はビリーの感情が爆発するようなダンスを目の当たりにすると、その才能に衝撃を受ける。

そして父は一転、ビリーのバレエ学校入学のための資金のために、仲間を裏切ってストを破ろうとするがトニーに止められ、「ビリーの夢を叶えてやりたい、ビリーには未来がある!」と泣き崩れる。

ビリーのために信念をもかなぐり捨てて応援していく父ジャッキーの姿がたまらなく愛おしく、さらに大切な妻の形見のアクセサリーまでも質屋に持って行く様はもう涙なしでは観れなかった。

そんな父の姿を見た仲間たちの協力もあり、ビリーは無事オーディションを受けることが出来、結果も見事合格。

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そして遂に学校へ入学するため、ビリーが故郷を旅立つ日がやってくる。

ビリーは合格したことの感謝をウィルキンソンにはぎこちなかったがしっかり伝えたんだけど、ここまで父への感謝の言葉はビリーが乗ったバスが走り去るまで遂に一言もない。

父は不器用に無償の愛を息子に捧げたが、ビリーに見えないところで行われたため、そんな親心を知らないままのビリーがもどかしく、それでも変わらない愛を注ぐ父親の姿が、ため息が出るほど切なかった。

そしてビリーを見送った後、すぐに父とトニーは炭鉱のエレベータに乗り込み、地下に降りていくシーンが切り替わる。

さらにバレエ教師のウィルキンソンが、誰もいなく叶った体育館で一人たたずんでいるシーンに替わり、いっきに寂しさと切なさが爆発する。

もうスティーブン・ダルドリー監督最高!

 抑えられない衝動に抗いながらも、バレエに目覚めたビリーの夢に向かって走り出す若さのエネルギーと、どこまでも息子にその夢を叶えて欲しいと応援する父親との親子愛は、感動のフィナーレを迎える。

ラストでその夢を実現したビリーが登場するシーンでは、実際にロイヤル・バレエ団のトップダンサーとして活躍していたアダム・クーパーが出演し話題となった。

 そんな素晴らしい傑作を観た充実感の中で、ただ一点の不満が(笑)

本作は2回目を吹き替えで観たんだけど、劇中でビリーがなんと父親を”パパ”と呼んでいた。

ここは絶対「父さん」だろう(^^)

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 本作は後に2005年舞台ミュージカル「ビリー・エリオット」として上演され、続く2008年には遂にブロードウェイ公演を果たし、第63回トニー賞のミュージカル作品賞を含む主演男優賞など10部門で受賞を果たす。

 なお、Blu-rayの特典映像は予告編だけでした、残念(涙)

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このレビューをアップした時点で、残念ながらPrime videoでは配信されていません。(2024/08/14)

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