映画『カッコーの巣の上で』レビュー ★★★★★

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あらすじ

 人里離れたオレゴン州立精神病院、病棟の中クラシック音楽が流され患者たちに薬が与えられている。
そこへ手錠をかけられたマクマーフィが到着し、車から降ろされれ病院に入り手錠を外されマクマーフィは大喜びで警備の男にキスをする。

 病棟の中を案内されるマクマーフィは、そこにいる様々な患者たちのなか、ひときわ大きな男に声をかけるが反応がない。
近くにいた青年ビリーが彼はろうあのインディアンだという。

 院長室に案内されたマクマーフィは、院長のスピービーからなぜこの病院へ来たのか分るかと問われる。
未成年の少女との淫行罪により逮捕されたマクマフィーは刑務所に送られたが、強制労働を逃れるために精神異常者のフリをしているのではとの疑いがあった。
院長は本当に精神を病んでいるのか鑑定するためこの病院に入院し、60日間観察して必要な処置をとることにすると告げる。

 日課としてラチェッド婦長を中心に、患者たちが集まりミーティングを行っている。
婦長の問いかけに誰も意見が言えずにいたが、そのうち言い争いが起こり、収拾がつかなくなっていく様をマクマーフィは笑って眺めていた。
そしてそんな中でも一切表情を変えないラチェット婦長を見つめる。

 マクマーフィは次第に話が出来ないので院内で流される音楽の音量を下げて欲しいとか、与えられる薬がなんだか分らないのに飲めないと、婦長に反発的な態度をとっていくが、婦長はそれをことごとく高圧的に拒否し戒める。
そこでマクマーフィは患者たちに、一週間以内に婦長をキレさせると宣言する。

そして日課であるミーティングの中で、マクマーフィは今夜の作業予定を変更してテレビでワールドシリーズを観戦したいという。

ラチェッド婦長は入念に練られた日課を変更することは出来ないと答えるも、ここは民主主義らしく多数決をとってはという。
それを聞いて喜び、みんなに挙手を求めたマクマーフィだったが、手を上げたのはわずか二人だけ。

 自分の意思を表さない患者たちに失望したマクマーフィだったが、彼のチャレンジする反骨精神に感化されて行った患者たちは、次の日のミーティングでチェドウィックが再度採決をとってほしいという。
そして戸惑いながらもミーティングに参加していた9人全員が賛成の手を上げていった。

それでも婦長はこの棟にいる患者は18人いるので、変更に必要な過半数に満たないと否決しようとするが、納得のいかないマクマーフィは、残りの患者たちに声をかけていくが話が通じないものばかり。
あきらめかけたマクマーフィは最後にチーフに手を上げるよう声をかけると、チーフはゆっくりと手を上げた。
それを見たマクマーフィは婦長に過半数になったのでテレビをみせてくれというが、既にミーティングは終了していると断られる。

怒りを抑えきれないマクマーフィはついていないテレビを見ながら、大声で野球の実況をはじめる。
すると部屋に戻りかけていた患者たちが、テレビの前に集まってくると、マクマーフィと一緒に大騒ぎで盛り上がっていった。

そんな彼らの姿を氷のような表情で見つめるラチェッド婦長・・・。

作品データ

  • 製作年/製作国/上映時間:1975年/アメリカ/133分
  • 監督:ミロス・フォアマン
  • 脚本:ローレンス・ホーベン/ボー・ゴールドマン
  • 原作:ケン・キージー
  • 音楽:ジャック・ニッチェ
  • キャスト:ジャック・ニコルソン/ルイーズ・フレッチャー/ブラッド・ドゥーリフ/クリストファー・ロイド/ダニー・デビート

レビュー (ネタバレあり)

 1962年に発表されたケン・キージーの同名ベストセラー小説を映画化した、ミロス・フォアマン監督作『カッコーの巣の上で』をBlu-rayにて鑑賞。
本作は1976年の第48回アカデミー賞で、作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・曲本賞と主要5部門を独占したヒューマンドラマの傑作。

 刑務所での強制労働を逃れるため精神異常を装って精神病院へ送られてきたマクマーフィは、人間性までを支配されていた患者たちを見て、持ち前の反骨心から患者たちの自由を勝ちとろうと試みる。

 この精神科病院に入院している患者たちは、ラチェッド婦長の管理のもと決められた時間に起き、決められた薬を看護師の前で飲み、ただ規律を守っておとなしくしていることを強いられるが、そういう環境を誰も疑問を持たず受け入れて日々を送っている。

 ここで描かれる精神科病院という閉ざされた小さな世界は、まさしく現代の集団社会における体制に管理された世界であり、その中でいかに自らのアイデンティティを確立していくかという社会そのもの。

ラチェッド婦長の規律を重んじるために個人の意思も尊重せず、管理下においてただ従順に従う患者を作り上げていくことに、欲望のまま自由に生きてきたマクマーフィは当然反発していく。
さらにマクマーフィは患者たちとの交流を深めていくと、自由を束縛されてなお従順な彼らを見て、次第に友人として婦長の抑圧から解放させようと思うようになる。

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それは患者たちとの友情を育んでいくうちに、自分勝手だった自身がいつしか他人を想う人間に成長していくことだった。
そしてそんな己の思うままに反抗し行動を起こしていくマクマーフィをみていた患者たちは、次第に生気に溢れた表情を浮かべ尊厳を取り戻していく。

 様々な環境とそこで出会う人間により、アイデンティティは形成されるものなんだということを、改めて知らされる。
そして同時に人間性を否定されアイデンティティクライシスに陥ってしまう人たちを強烈に意識させる。

それでも明るい表情で喜び合う患者たちの姿を見ているうちに、心が温かくなり、いつしかマクマーフィがラストで自由を勝ち取ることを期待していくことに。

しかし体制は、管理された集団社会の中で人と違う思考をし、人と違う行動を起こすことをひとくくりに異常者と断定し、それを力ずくで強制しようとする。

【ここからネタバレあり】







 後半の脱獄前にみんなでどんちゃん騒ぎを起こした後、ビリーを自殺に追い込んだラチェッド婦長に激怒したマクマーフィは、彼女の首を絞めたことである治療を施される。

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しばらくしてみんなが寝静まる中戻ってきたマクマーフィは、既にマクマーフィではなくなっていた。

それはロボトミーという精神疾患に対する効果的治療法として、脳の前頭葉白の神経線維を切断するという手術だったが、人格が破壊されるなどのさまざまな障害が起こることが問題になり廃止されている。

何が恐ろしいかって、こんな悪夢のような手術が実際に行われていたということに恐怖する。

 戻ってきたら一緒に脱走しようと待っていたチーフは、マクマーフィが既に廃人になってしまったことを知り、優しく抱きしめると、「一緒に行こう」と枕を顔に押し当てる。
そして窓を破り外へ駆け出したチーフの姿は、朝靄の中に消えていった・・・。

 既に2回は観たことある作品だったけど、この胸が張り裂けるラストに圧倒され、しばらく動けなくなり、流れるエンドロールをただ眺めていた。
改めてなんて重いエンディングなんだろう。

マクマーフィーは患者たちを鼓舞したヒーローだったんだろうか。
ラチェッド婦長の純粋に教科書通りに正しい方向へ導こうとする抑圧は悪だったんだろうか。

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本作を観た者は、既に人生をあきらめてしまっていたチーフが、再び人間の尊厳を取り戻し、新たに生きる人生を選択し、力を振り絞って踏み出した姿に希望を抱くしかない。
そのために行動を起こしたチーフの勇気を称えるしかない。

脚本のボー・ゴールドマンが、”人生をあきらめてる人にこそ本作を観てもらいたい”という。
一度しかない人生を、自分らしく精一杯いきることとは、かくも過酷なことなのか。

見終わった後に、自分が歩んできた人生、そしてこれから新たに歩んでいくだろう人生を深く考えさせられる作品だった。

 まずここまで心を激しく揺さぶられる傑作を創り出したミロス・フォアマン監督の、リアルな演出が素晴らしい。

とにかくリアルを追求していった監督は、セットではなく本物の患者が住んだ病院で撮影を行い、俳優たちには患者たちの歩き方や動き方や話し方を見て学んで欲しいと伝える。
そして出演者すべてが演技ではなく、まるでアドリブのように振る舞う自然な姿が、目に焼き付けられていった。

本作が映画初出演となったクリストファー・ロイドは、あの病院の中では誰が入院患者で誰が俳優か見分けがつかなかった、なんてメイキングで語っている。

 確かに傑作だ。
ただインパクトが強すぎてそう何度も見れないので、私の中ではちょっと減点(爆)
ファンの方、ごめんなさい(^^;)

 原作では先住民のチーフが幻覚を見ているかのように話が進むらしく、かなり映画とはそのニュアンスが違っているようなので、機会があればその原作を読んでみたい・・・、かも(笑)

特典映像のメイキングについて

 Blu-rayの特典映像として、1時間26分もの「メイキングー完全版-」が収録されていて、これは必見です(^^)
まず作家ケン・キージーが、西海岸で大学院生たちと一緒に暮らしていたとき、その中の一人が病院で薬の実験をしていて、自分がその実験台になったなんていう衝撃のエピソードが語られる。
使われる薬はメスカリンなどの幻覚剤で、服用すると幻覚が見えてくる薬であり、飲んでいる間鍵のかかった病室に入れられ、一週間で20ドルという謝礼金で薬を8週間飲み続けたとのこと。

その実験を終えた後は病院へ戻り、助手として手伝いはじめ、自分のいた病棟で9ヶ月間夜の勤務を続け、そこで働いている間に本を書き上げたと語る。

 そしてまずケン・キージーのこの作品に惚れ込んだカーク・ダグラスが権利を買い、自身が主役となりブロードウェイで舞台化したが、精神疾患の患者をからかうのかと、公演は打ち切られてしまう。

その後もカーク・ダグラスは映画化を目指すが、行き違いがあり時は流れ、息子のマイケル・ダグラスがその意志を継ぎ、改めてケン・キージーに脚本を依頼する。

そしてさっそくケン・キージーと会うが、自分たちがつくろうとしていたのはコメディで、ケン・キージーが描きたかったのはゆがんだ世界であったため、映像向きではないと感じたマイケル・ダグラスと議論となり、最悪の事態に発展して結局物別れに終わる。

マイケル・ダグラスは次にローレンス・ホーベンに脚本を依頼し、紆余曲折した本作は、ここからやっと映画化に向けて動き出した。

 配役についてもマイケル・ダグラスが語っている。
マクマーフィ役で最初に候補に上がったのはジーン・ハックマンだったが断られ、マーロン・ブランドもだめで、「さらば冬のかもめ」に出演していたジャック・ニコルソンに大きな存在感を感じたとキャスティングする。

 精神科病院の患者役には無名の俳優を使いたかったミロス監督の意向で、3000人ほどの俳優のなかから複数の俳優を呼び、読み合わせをさせ監督がお互いの反応をみて選んだとのこと。
出演者たちが、その時のオーディションは監督が看護師役で次々にアドリブで不自然な質問をぶつけて仕掛けてくるという大変なものだったと語っていた。

 チーフ役についてはダグラスが機内で会った港湾管理者メル・ランバートに、デカい先住民がいたら知らせて欲しいと依頼し、それから5ヶ月後にとにかくデカいウィル・サンプソンという森林警備をしている男がいると連絡が入る。
飛行機から出てきたブーツに帽子姿で2メートルはあるウィル・サンプソンを見たとき、全員が信じられないと息をのんだよとダグラスが笑う。

 ラチェッド婦長役は見るからに悪人という人物がいいということで、アン・バンクロフト、コリーン・デューハースト、ジェラルディン・ペイジ、アンジェラ・ランズベリーにオファーするが全員に断られる。
まあここは見るからに悪人ということでオファーした方もした方だけどね(笑)

しかしミロス監督は見るからに悪人ではない人が演じたほうが効果があると思い直し、その方が物語の展開がより恐ろしくて強烈になると、ルイーズ・フレッチャーに婦長役を打診したとのこと。

キャスティングについても大変だったようですね(^^;)

他にも「マイケル・ダグラスが語る現代の精神医療」というドキュメンタリーだったり、「未公開シーン集」も収録されている。

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Prime video

このレビューをアップした時点で、残念ながらPrime videoでは配信されていません。(2023/7/16)

DVD/Blu-ray

Amazon.co.jp : カッコーの巣の上で

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