あらすじ
プラハの南にある小さな村クシェチョヴィツェの朝、職場へと向かう農場のトラック運転手パヴェクと相棒のオチク。
小柄で太っちょのパヴェクは、ちょっと頭の弱い青年オチクを、早くに亡くなった両親の父親代わりとして面倒を見続け、5年が経っていた。
オチクのいろんなミスも辛抱して相棒を続けていたパヴェクだったが、この日はオチクの不注意で、別荘族の家の門柱を壊してしまう。
我慢の限界だとパヴェクは、集団農場の村長にオチクの面倒をみるのは、収穫が終わるまでだと宣言する。
代わりとなるトゥレクは暴力的で、オチクは彼と一緒は嫌だとパヴェクに懇願するが、聞いてもらえなかった。
そんなある日、プラハの林鉱公団から集団農場の村長へ、オチクを採用したいという手紙が届く。
既にオチクには関係者が接触をとり、彼の好きな映画館が57もあるとか説得され、パヴェクとのこともあり、オチクはプラハに行く決心をする。
しかし、実はオチクの住んでいる家を狙って、何者かが策を弄し彼を都会へ移住させようと企んでいることが判明する・・・。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:1985年/チェコスロバキア/102分
- 監督:イジー・メンツェル
- 脚本:ズディニェク・スヴェラーク
- 音楽:イリ・ブロゼック
- キャスト:ヤノーシュ・バーン/マリアン・ラブダ/ルドルフ・フルシンスキー/ペトル・チェペック
レビュー(ネタバレあり)
”のどかな村の、ちょっと可笑しなスケッチ”
本国チェコで総動員数100万人という大ヒットを記録し、1986年のアカデミー賞外国映画賞にノミネートされた他、数々の映画賞を受賞した『スイート・スイート・ビレッジ』を久しぶりにBlu-rayにて鑑賞。
Blu-rayのジャケットには”イジー・メンツェル監督の、屈指の人気作”と書かれており、私も大好きな作品なのだ。
オープニングは霧の中を颯爽と歩いてくる太っちょのパヴェクが、口笛を吹くとのっぽのオチクが現れ、すぐにパヴェクの横に並び、足並みをそろえて歩き出す。
でも歩幅が違うのでオチクは何度もちょっとジャンプして、足並みを合わせ歩いて行くという、なんともほっこりするシーンから始まる。
もうこのゆる~いシーンから、これは当たりだと私は確信する(^^)
物語はこの二人の関係を中心に、小さな村を舞台にゆったりと流れる時間のなかで、村人たちの様々な想いと交流が、温かく描かれていくという作品。
まず登場する村人たちが実にユニークで、おかしくも可愛らしい。
オンボロ車に乗り、風景に心を奪われ事故を繰り返すドクトルや、タバコを吸う度に、擦ったマッチをそのままマッチ箱に戻す集団農場の主任。
さらに嫉妬深い夫の目を盗み、逢い引きを繰り返す美人妻に、オチクの身の回りの世話を焼く、口やかましいおばあちゃん。
そして信任の女性教師に心を奪われ、しつこくつきまとうパヴェクの息子とか、みんないろんなエピソードを振りまく。
そんな村人たちのなにげない日常に、自分の中の人を想う優しさが、ゆっくりと溢れだしてくるのを感じる。
劇中でパヴェクの家のテラスで、パヴェクとドクトルがビールを飲んでいい気分なっているシーンがあり、その時ドクトルがほろ酔いで
“「こういうときの気分を大切に覚えておいて、冬に思い出すと、それだけで心が暖まる」”
という台詞がある。
まさしく本作を見終わった後の、暖か~い気持ちがそうであり、ふと思い出すだけで、ちょっと楽しい気分になれる気がする(^^)
実際には、こんなにも濃厚に近所の人たちとお付き合いするということは、私は苦手なのでこの村に住んでみたいという気持ちは、あまり沸いてはこないんだけど、お互いを想い合う優しさが、春の日差しに溶け込んだように降り注ぐこの村を、眺めているだけで気持ちが穏やかになっていく。
【ここからネタバレ】
結局オチクをそそのかしていたのは、パヴェクが門柱を壊した別荘族の男で、彼の家をプラハの林鉱公団の理事長の別荘にしようと企んでいたが、最後の最後にその計画は阻止される。
こんな小さな村にまで、権力を振りかざそうとする役人たちを一蹴する爽快感もまた楽しい。
大きな権力に抗うという、イジー・メンツェル監督のメッセージが、ここら辺に描かれているんじゃないかな、たぶん(^^;)
ラストシーンで、足並みをそろえて歩いて行くパヴェクとオチクの、まるで音楽に合わせるように一緒に跳び上がる姿に、「なに、この演出!」と、もう嬉しさが爆発し、涙が出そうになった。
そしてこんなにも素晴らしい映画があるんだと、この作品に出会えたことが嬉しくてたまらない。
文句なしの満点です!
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このレビューをアップした時点で、残念ながらPrime videoは配信されていません。(2022/10/30)
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