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映画『スモーク』レビュー ★★★★☆

出典元:https://www.amazon.co.jp/

あらすじ

 1990年の夏、ブルックリンの街角のタバコ屋では、店主のオーギー・レン(ハーヴェイ・カイテル)と常連客の男たちが“女と葉巻”について語り合っていた。

そこへタバコを買いにやってきた小説家のポール・ベンジャミン(ウィリアム・ハート)は、“女と葉巻”といえばエリザベス女王だなといい、女王のお気に入りだったウォルター・ローリー卿がイギリスにタバコを紹介したんだという。

そしてあるときウォルター卿が女王に”タバコの煙の重さを量れる”と賭けをしたという話を聞かせる。
聞いていた客たちはそれは無理だとポールに言う。

ポールは続けて、ウォルター卿は頭がよく、まず新しいタバコ一本を天秤に置いて量り、次にそのタバコに火を付けて吸い始め、量りの天秤の皿に灰と吸い終わった吸がらも入れて量り、それを吸う前の重さと差し引いてみせたという。そう、

「つまりその差が“煙の重さ”だよ」といってポールはみんなを見て微笑む。

 ポールが帰った後、オーギーは彼が近所に住んでいる作家なんだけど、不幸がありここ2,3年は書いてないと話す。

数年前の銀行強盗で犯人が通りに向けて撃ち4人の犠牲者を出したが、その犠牲者のひとりが彼の妻で、未だに立ち直れずにいると説明する。

 一方ポールは考え事をしながらぼんやり街の通りを歩いていたが、うっかり道路に入ってしまったところを、「あぶない!」と引っ張られる。

ポールは自分を助けてくれた黒人の少年に礼をさせて欲しいと、カフェでレモネードをご馳走する。
そしてもし泊まるところがなければ2晩ほどならいいよと、ナプキンに住所を書いて渡した。

作品データ

  • 製作年/製作国/上映時間:1995年/アメリカ/113分
  • 監督:ウェイン・ワン
  • 脚本・原作:ポール・オースター
  • 音楽:レイチェル・ポートマン
  • キャスト:ハーヴェイ・カイテル/ウィリアム・ハート/フォレスト・ウィテカー/アシュレイ・ジャド/ストッカード・チャニング

レビュー

 現代アメリカ文学を代表する作家ポール・オースターの短編小説「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」をもとに、都会の片隅に生きる男たちの日常を暖かいまなざしで描いたウェイン・ワン監督作『スモーク』を観る。

ベルリン国際映画の銀熊賞に輝いた本作も、映画好きが必ずあげる一本であり、ハートウォーミングという言葉がピッタリの映画なのだ。

 街の通りをぼ~っと歩いていた小説家のポールが、車にひかれそうになったところを助けた黒人の少年ラシードがついた”噓”により、街角に古くからあるタバコ屋の店主オーギーを中心に、そこに集うそれぞれの人生が何かに導かれるように動き出し、何かに引き寄せられるように交差する。

 まずキャスティングについて、14年間毎朝欠かさず8時ちょうどに3丁目と7番街の交差点を、一日も欠かさずカメラで撮り続けているタバコ屋の店主オーギーを演じるハーヴェイ・カイテル

オーギーの人生が浮かんでくるような豊富な経験値が醸し出す男臭いオーラに、人情味あふれた深みのある表情は、彼以外には考えられない程の絶品の演技だった。

出典元:https://www.amazon.co.jp/

 このオーギーの4000枚にも及ぶ写真を、ポールがサラッとアルバムをめくって流していくシーンがあるんだけど、オーギーは「ゆっくり見なきゃダメだ」という。

サラッと眺めていくとどれも同じ写真に見えるけど、丁寧に見れば一つとして同じ写真はなく、そこには過ごしてきた日々は常に違った物語が紡がれていたことを観ている自分も気づかされ、さらに自らがたどってきた日常を同じように顧みることになり、かけがえのない日々を噛みしめ心が温かくなっていった。

こんなヘンテコな日課が、こんな素晴らしいエピソードになるんだと感心してしまった(^^)

さらに愛する妻を事故で亡くし、以来小説が書けなくなった作家ポール・ベンジャミンを演じるウィリアム・ハートは、インテリジェンスを感じさせるたたずまいに、切ない哀愁をまとう。

 他にもフォレスト・ウィテカーストッカード・チャニングなど、演技派を集めたキャスティングにより、それぞれのキャラクターはその場所に実在するようなリアルさで人間臭く息づき、観るものを優しく惹きつけると、自分もその空間にいるような気持ちで彼らの生き様を目撃していく。

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また、意外な役でアシュレー・ジャドが出演していたりして、この出演者たちが奏でる何気ないシーンが、実に見ごたえ十分なんだなあ。

 劇中で語られる“煙の重さ”や”雪崩にあった男の話”からオーギーのクリスマスの話まで、アメリカでもそういう表現をするのか、まさしく煙に巻くような話なんだけど、どれも味わい深く、小説を読んだ時のように文章の奥にある何かを感じさせる。

 いろんなところに含みが隠されているようであり、その何かは観た人のそれぞれの解釈であり、そこにこの作品の魅力があるように思う。

私が感じた何かは絆だった。それは親子の絆であり、夫婦の絆であり友との絆。

そしてそれはタバコの煙のように実態もなくとらえどころがないものだけど、信じる心によって結ばれるべくして結ばれるもの・・・、なんてね^^;

そして、ポール・オースターのいう”信じるものが一人でもいれば、その物語は真実に違いない”は、人生における幸せの定義のように感じた。

 ラストで味わうカタルシスは、何度観ても褪せることなく、観るたびにしみじみと心が潤う大好きな作品なのだ。

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