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映画『田舎の日曜日』レビュー ★★★★☆

出典元:https://www.amazon.co.jp/

あらすじ

 1912年の初秋。
 パリ郊外で美しい緑に囲まれた邸宅に、家政婦のメルセデスとふたりで静かに暮らしている老画家ラドミラル(ルイ・デュクルー)は、今朝からそわそわと落ち着かない。

それは今日は日曜で、もうすぐ息子のゴンザグが妻と孫を連れて家にやってくるからだ。

汽車の到着時間が10時50分ということで、40分に出ようというラドミラルにメルセデスはそれでは間に合わないというが、老いを認めたくないメルセデスは汽車が定刻より早いんだと反発する。

額の汗を拭い駅への道を急ぐラドミラルだったが、駅に着く前に孫が走ってきた。

せわしなく駆け回るふたりの息子と、ちょっと体の弱い娘ミレイユを連れた息子夫婦に再会したラドミルラは、それぞれとキスを交わす。

こうしてラドミラルの心待ちにしていた日曜日が始まる・・・。

作品データ

  • 製作年/製作国/上映時間:1984年/フランス/91分
  • 監督・脚本・製作:ベルトラン・ダヴェルニエ
  • 原作:ピエール・ボスト
  • 撮影:ブルーノ・ド・ケイゼル
  • 美術:パトリス・メルシエ
  • 音楽:ガブリエル・フォーレ
  • キャスト:ルイ・デュクルー/サビーヌ・アゼマ/ミシェル・オーモン/ジュヌヴィエーヴ・ムニック/モニータ・ショメット

レビュー (ネタバレあり)

 84年のカンヌ国際映画祭での最優秀監督賞受賞を始め、数々の映画賞を受賞したベルトラン・ダヴェルニエ監督作『田舎の日曜日』をDVDにて鑑賞。

本作は全く知らなかった作品だったが、ある映画好きの方に教えてもらい、大好きになった作品(^^)

 ある日曜日、年老いた老画家ラドミラルが、久しぶりに集まった息子夫婦と孫たち、そして溺愛する娘エレーヌに囲まれ、楽しさと賑やかしさの中で過ごす一日を牧歌的に描いた作品。

そんな中でも日々老いを感じているラドミラルが垣間見る、今は亡き妻との在りし日の思い出。

そこには特別なものはなく、事件や感情を揺さぶられるものもなく、平穏な日がな一日が描かれているだけなので、退屈と感じる方もいるかも知れない。

ただ私はこのなんの起伏もない、静かにじっくりと味わえる淡々系(自分でそういってるだけ)の作品に、なぜか惹かれてしまう。

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その作品の根底に息づく、たどってきた人生についての心の移ろいを、淡々と描かれる中にも絶妙に差し込まれるペーソス溢れるシーンは、心の奥深くに語りかけてくる。

 たぶん一番父の体のことを心配し、ただ父を喜ばせたくて、できるだけ日曜日には顔を見せようとする愚直な息子ゴンザグ。

父の描く絵に魅力が無いといいながら、その生き方を尊敬している娘エレーヌ。

勝手気ままに振舞いながらも、父の愛情を独り占めにしてしまうエレーヌを、すぐそばで寂しげに見つめるゴンザグ。

 日曜日の穏やかな木漏れ日の中で、それぞれの想いを乗せてゆったりと時間が流れていく。

カメラはそんな日曜日の一日を、ただ静かに映し出していく。

そしてワンショットでゆったりと映し出される風景は、どれも印象派の絵画のように美しく、深い安らぎを感じさせる

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 原作は「赤と黒」や「禁じられた遊び」など40年代50年代のフランス映画の傑作の脚本を手がけたピエール・ボストの小説「ラドミラル氏はもうすぐ死ぬ」(こんなタイトルだったとは^^;)

そんな古きフランス映画の象徴であるピエール・ボストは、フランソワ・トリュフォーなどヌーヴェルヴァーグ派から酷評されるが、監督のベルトラン・ダヴェルニエはあえて伝統あるフランス映画にこだわって本作を完成させる。

本作の主人公ラドミラルが、エレーヌに自らの絵画手法について語るシーンがある。

自分は先生に教わったとおり伝統と規則を守ってきたが、印象派と呼ばれるセザンヌやモネのように独創性に心を引かれた時期もあったが、それでもなお自分の感じるままに描き続けたと告白する。

そう、まさしく老画家ラドミラルは、ベルトラン・ダヴェルニエ監督の分身のように描かれているんじゃないかと感じた。

ヌーヴェルヴァーグが席巻するフランス映画界で、時流に流されることなく、あえて自分の感じるままに古き良きフランス映画の伝統を受け継いだ監督の心情が、より作品に哀愁と深みを与えている気がする(かってに^^;)

私の大好きな作品なのだ(^^)

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【ここからネタバレ】





 そして楽しかった日曜日は、やがて終わりを迎える。

嵐のように去っていった娘。

夕食を一緒にと願う父のために、汽車の発車時間ぎりぎりまでいてくれた息子達も、慌ただしく帰って行った。

静かな屋敷の中に一人残されたラドミラルは、おもむろにアトリエへと向かう。

そしてここからこの映画は最高のクライマックスをむかえる。

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 自分の節くれ立った指をなでながら、一人老いと寂しさを噛み締めるラドミラル。

おもむろにイーゼルに載せた描きかけのデッサン画を外し、新たなキャンバスに置き換える。

人生の悲喜に想いをめぐらせ、まっさらなキャンパスをじっと見つめる。

それは自らの終活を意識し、悔いのない人生を送るために、かつて勇気がなくあきらめていた印象派の世界に飛び込む覚悟だったかも知れない。

そんなラドミラルの覚悟を悟ったかのように、カメラは窓を抜けモネの庭のように美しく広がる木々の風景を映し出す。

老いて尚、創作意欲を失くさぬことが自分の生きてきた証であり誇りであるかのように・・・。

素晴らしいシーンだった。

 自分の生きてきた人生はどうだったんだろう。

晩年を迎えたとき、私は人生を振り返って何を想うんだろう・・・。

観終わった後、人生の哀歓を共にした人たちをしみじみと想い、日曜日の夜9時のようにちょっぴり切ない気持ちにさせられる、そんな味わい深い作品だった。

ただあまりにもゆったりとした展開で流れていくため、こういう淡々系に慣れていない人には、あまり薦められない作品かも・・・ね(笑)

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