あらすじ
1880年、ワイオミング州のビッグウィスキーという町にある娼館で、客のカウボーイが些細なことで娼婦ディライラの顔をナイフで切りつけるという騒ぎが起き、保安官のリトル・ビル・タゲット(ジーン・ハックマン)は呼び出される。
もうひとりの連れとふたり縛られた男を、縛り首にするようタゲットに訴えるアリスだったが、タゲットは悪い奴には見えないと、ムチの代わりに店の主人のイライザ・スキニーに7頭の馬を連れてくるよう約束させ、ふたりを解放する。
怒りの収まらないアリスは、娼婦たちみんなからお金を集め、娼館にやってきたカウボーイたちに、ふたりの男に賞金1000ドルを賭けたと吹聴する。
そんなある日、草原の一軒家で子供たちふたりと豚を飼って暮らしていたウィリアム・マニー(クリント・イーストウッド)のもとに、若い青年が訪ねてくる。
青年は、「伯父のピートからあんたは極悪人だといわれ、殺しのパートナーにはピッタリだ」といい、自分はスコフィールド・キッド(ジェームズ・ウールベット)だと名乗ると、女を切り刻んだカウボーイをふたり殺すためにワイオミングへ向かっているので、相棒になって欲しいという。
キッドは賞金1000ドルを山分けだというが、「昔の俺とは違う、妻が真人間にしてくれた」とマニーが断ったため、気が変わったら追いかけてきてくれいい去っていった。
ただ、一旦は断ったマニーだったが、今の幼い息子と娘との貧しい生活を顧みて、再び銃を持つことを決意する。
それでも10年ぶりに握る銃で試し打ちをするも照準は定まらず、馬にも跨がれず転ぶ始末だったが、3年前になくなった妻の墓に花を供えると、子供たちに2週間で戻ると言い残し、キッドの後を追っていった。
途中マニーは、子供たちの世話を頼むために、かつての相棒で今は農夫となって妻と静かに暮らしているネッド・ローガン(モーガン・フリーマン)のもとを訪れるが、賞金を3等分することを条件にネッドも同行することを決意する。
マニーとネッドは後を追い、キッドと合流すると町へ入るが、酒場にいるところを聞きつけてやってきた保安官のタゲットにマニーは殴り倒され、外で倒れていたところをキッドとネッドが救出し、なんとか町外れの隠れ家に逃げ込む・・・。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:1992年/アメリカ/131分
- 監督:クリント・イーストウッド
- 脚本:デビッド・ウェッブ・ピープルズ
- 音楽:レニー・ニーハウス
- キャスト:クリント・イーストウッド/ジーン・ハックマン/モーガン・フリーマン/リチャード・ハリス/ジェームズ・ウールベット/フランシス・フィッシャー
レビュー
”私のウエスタン映画について思っていたこと全てを要約した”
Blu-rayのジャケット裏に、クリント・イーストウッドのこんな言葉が載っていた。
勧善懲悪のストーリーと華麗なるガンファイトと、従来の西部劇とよばれるものとは全く趣を変えた本作は、第65回のアカデミー賞の作品賞、監督賞(クリント・イーストウッド)、助演男優賞(ジーン・ハックマン)、編集賞の4部門を受賞を始め、世界中から絶賛された。
かつて列車強盗など残忍な人殺しとして悪名をとどろかせていたウィリアム・マニーは、結婚を機に改心し農夫となっていたが、3年前に妻がなくなり生活も貧困に窮していたとき、不意に現れた血気盛んな青年キッドの賞金稼ぎの誘いを受け協力することに。
昔の相棒だったネッドと共に、賞金が賭けられたふたりのカウボーイを殺すために町に入るが、保安官のタゲットにマニーは袋だたきにあい、早々に町外れの隠れ家に逃げ込むことに。
アリスたちの介抱によりなんとか意識を取り戻したマニーは、キッドとネッドの3人でカウボーイの1人を岩場で追い詰め撃ち殺すが、ネッドは殺しに耐えられず帰ってしまったため、キッドと2人で隠れ家を見張り、すきを突いてキッドがトイレに入ったカウボーイを撃ち殺す。
人を殺したことにショックを受けるキッドだったが、賞金を届けに来た娼婦から、ネッドが捕まり拷問の上に殺され酒場の前でさらし者にされていると聞いたマニーは・・・。
かつて非情な悪党として名を馳せたガンマンだった男が、年老いて体も衰え若造にはなめられ、町では袋だたきにあってしまうが、最後に眠っていた真の無法者の血を爆発させる。
町のいざこざに、一気に幕を下ろしたのは誰でもない、ひとりの無法者だった。
本物の無法者と呼ばれるものたちの、震え上がるほどの残虐性と、なんのためらいもなく命を奪う凶悪性をリアルに描いた、これぞ本物の西部劇。
本作を最初に観たときの印象は、衝撃のラストから西部開拓時代を生き残った最後のガンマンを描いた作品、なんて感想だった。
ところが、このBlu-rayの特典映像に収録されていた「10周年記念ドキュメンタリー」見て、作品のテーマが全く違っていたことを思い知らされ、軽い自己嫌悪に陥る(^^;)
クリント・イーストウッドが伝えたかったものは、本物の無法者の凄みを感じさせるものではなく、暴力について考えさせられる映画だった。
しかも、そんなことを考えて思い返してみると、考察が止まらなくなるほどの深い作品だった。
最初は娼婦に客が暴力を振るったことで始まり、娼婦が賞金を賭けたことで暴力が連鎖を起こしまた暴力を呼び、ついには町中の多くの人たちを巻き込み、凄惨な最後を向かえる。
その中心にいたのが、法と秩序のもと、町を守るため正義を盾に暴力を振るう保安官のリトル・ビル・タゲットと、かつてなんの躊躇もなく人の命を奪う冷酷な極悪人だったウィリアム・マニー。
本作は男尊女卑・人種差別などが渦巻く西部開拓時代という混沌の世界の中、暴力は暴力によって生まれ、その暴力は暴力しか生まず、そんな暴力に対抗するものは暴力しかないのかと、観るものへ投げかけてくる。
娼婦たちにカウボーイ、保安官に賞金稼ぎなど、それぞれが振るう暴力は、もはや誰が許されざる者なのかさえ分らない。
さらに、イーストウッドの描くリアルな西部劇は、物語の途中でイングリッシュ・ボブという名うてのガンマンが、賞金稼ぎに町へやってくるが、この男の数々の武功が全て作られた噓の話だったことをタゲットに暴露させる。
あたかも過去の西部劇で登場したガンマンたちの話までも、このイングリッシュ・ボブについていた作家が書いたように、すべてカッコよく盛られた噓の話だとでもいうように。
噓の情報で作られていった伝説のガンマンたち。
それはさらに深読みすると、自分たちに都合のいいように情報を操作し、正義の名の下に力を行使することを正当化するという、まるで世界のリーダーを自認するアメリカを映すような暴力の定義を、イーストウッドが西部劇の姿を借りて描き出しているのか。
なんて深読みが止まらない(^^;)
キャスティングについては、まずマニーを演じるイーストウッドの、ラストまでかなり情けない姿をさらすことになるんだけど、最後にみせる死線をくぐり抜けてきた男の戦慄するほどの凄みにシビれる。
そしてタゲットを演じるジーン・ハックマンの、法の下悪は絶対許さないという信念の男を、イーストウッド以上の繊細な演技と存在感でみせてくれた。
よ~く考えると、このタゲットって「ダーティハリー」にも見えるんだけど、一線を越えて尊い命を奪ったものに課せられた代償は、その命でしかなかったのか。
さらにこのふたりの重鎮に加え、ネッド役のモーガン・フリーマンが宿す人間くささと、英国人のガンマンのイングリッシュ・ボブ役のリチャード・ハリスのウィットさが作品を昇華させる。
「最後の西部劇」といわしめた、アウトローたちのリアルな生き様を描いた傑作です。
そして絶対にここで書いておかないといけないことが、吹き替え版で吹き替えをした豪華声優陣が素晴らしかったこと。
やっぱり私の中ではいつまでもクリント・イーストウッドは山田康雄さんだし、ジーン・ハックマンは石田太郎さんで、モーガン・フリーマンは田中信夫さん。
最高の吹き替えでした!
Blu-rayの特典映像について
Blu-rayの特典映像として、「10周年記念ドキュメンタリー」として、作品を振り返る語るキャストの貴重なインタビューが約23分ほど収録されている。
まずモーガン・フリーマンが、「許されざる者」は西部劇の常識を変えたといい、華やかなものはなくあるのは耐えがたいほどの暴力だけで、
”「この映画が問いかけるのは暴力の本質だ」”と語る。
これを観て、私は初めて作品の本質を知ることになる。
また、脚本のデビッド・ウェッブ・ピープルズは感銘を受けた「タクシー・ドライバー」を例に挙げ、
”「人と同じにはなりたくない、人と同じにはなれない男の心の痛みを僕も表現したかった」”と語る。
そいてクリント・イーストウッドは、固定観念にとらわれた過去の西部劇ではこれまで描かれなかった、過去に殺人を犯したガンマンがその過ちを悔い続けているという、その心の中にある”良心”を描きたかったと語る。
ほかにもイーストウッドの経歴を紹介する「イーストウッド・オン・イーストウッド」(1時間9分)や、当時のオールロケ撮影風景を収録した「メイキング」(23分)もあり、このBlu-rayの特典映像、イーストウッド ファンの方は必見(^^)
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