あらすじ
子供の頃から冒険にあこがれ、妻といつかは世界を回りたいと思っていたカールも、今や78歳の老人となり、最愛の妻もいない部屋でむかえる朝食は、味気ないものだった。
いつしか妻との思い出の詰まった家の周りには、再開発の波が押し寄せ、立ち退きを命令されるがカールは頑なに拒んできた。
しかしちょっとした事件をきっかけに、カールはこの家を離れ老人ホームへ保護されることになる。
ホームへの迎えがやってきた朝、突然カールの家の頭上を無数の風船が舞い上がった・・・。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:2009年/アメリカ/103分
- 監督:ピート・ドクター/ボブ・ピーターソン
- 脚本:ボブ・ピーターソン/ロニー・デル・カルメン
- 音楽:マイケル・ジアッチーノ
- キャスト:エドワード・アズナー/ジョーダン・ナガイ/ボブ・ピーターソン/クリストファー・プラマー
レビュー
次々と完成度の高いCGアニメ作品を世に送り出してきたピクサーの、「ウォーリー」に続く最新作『カールじいさんの空飛ぶ家』を観る。
かなり前評判の高かった作品で、中には最初の回想シーンでもう泣けるなんて感想もあった。
でもまあ設定が地味だったこともあり、劇場へは見に行く気がしなかったが、予告編などから画像が絶対に綺麗なんだろうとBlu-rayを購入した。
今までのピクサーの作品からいっても、本作のおじいさんが主人公の話というのは意表をついていて、持ち味のキャラクターが生き生きと躍動する姿と、おじいさんのほっこりしたイメージが結びつかず心配になる。
一方これはかなり大人を意識して作ったはずだと、ペーソス溢れるロードムービーっぽい作品を期待してしまった。
そして物語が始まってすぐ、奥さんとの出会いから別れのシーンがダイジェストで流れていく。
冒険家チャールズ・マンツに憧れていた少年カールが、空き家で同じように冒険好きの少女エリートと出会い、やがてふたりは結婚し幸せな日々を過ごしていくが、時は流れエリーは病に倒れ亡くなってしまう。
もうこのノスタルジーに包まれた温かいシーンが最高に素晴らしく、まさしく期待していたシーンに感動してしまった。
しかしその膨らんだ気持ちも、風船で家が浮かび上がってからは良くも悪くもやっぱり明るく元気ないつものディズニー作品となり、次第にしぼんでいった(^^;)
それでも鮮やかな色彩に、綿密に描きこまれた質感に滑らかなう動きと、ピクサーの更なるCG技術の進化に目を奪われる。
そしてラストに用意された、たたみかけるアクションシーンはさすがのワクワク感でみせてくれた。
ただねえ、先にも書いたがせっかくおじいさんを主人公にした作品だったのに、見せ場がアクションシーンというのはどうなんだろうなあ。
しかも若者のように走ったりジャンプさせたり、合間に腰を痛めるような自虐的な笑いまで盛り込みつつ。
なにより作品を盛り上げるためだろう、偶然空飛ぶ家に乗り合わせることになる騒々しい子供ラッセルが、あんまり好きじゃないんだなあ(^^;)
先立った妻を想い、新しい一歩を踏み出せずにいたカールじいさんの再生の物語という、ピクサーの難しいテーマに挑んだ意欲は買うが、当たり前だけどやはりあくまでも作品の対象は子供なんだよねえ。
アクションでみせるというところは外せなかったというか、私はそんなアクションより、「アバウト・シュミット」みたいな情感エピソードを期待させられていただけに、ちょっとものたりなかったかなあ。
しかしここでその物足りなさを満たした別のアニメをAmazonプライムで偶然発見する。
それは日本の短編アニメーションで「つみきのうち」という作品で、温暖化のせいか海の水位が徐々に上がっていった街で、そのたびに少しずつ積み木のように積み上げ家にひとり暮らす老人の話。
その日ベッドで目覚めた老人が、ベッドを下りると足下が水浸しとなっていた。
また水位が上がったことで、老人はさらに上の階を作る作業に入るが、途中お気に入りのパイプを海に沈む下の階へ落としてしまう。
老人はダイビングスーツを着込んで下の階へと潜り、落ちていたパイプを拾い上げた瞬間、かつて同じように落ちていたパイプを妻が拾い上げ、自分に手渡してくれた映像が頭に浮かんできた。
老人はさらに下の階へと続く扉を開け潜っていった・・・。
下の階へと潜っていく度に蘇ってくる思い出のシーンは切なくも温かく、自らの積み上げてきた人生を顧みさせ胸が一杯になる。
せっかく老人を主役に据えたのなら、人生について大切なものをもう一度考えさせてくれるようなテーマも入れて欲しかったなあ。
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