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映画『家族の気分』レビュー ★★★★★

出典元:https://www.amazon.co.jp/

あらすじ

 ある夏の昼下がり、メナール家の次男フィリップがテレビに出演するということで、ソファーに友だち二人と並んで座りながら電話をかけていた母は、慌てて電話を切りテレビに映る息子を見つめる。

また、フィリップの妻ヨランドも、庭で遊んでいた子供達を部屋へ呼び寄せ、ソファーでふざけ合う二人の子供の横でテレビを眺める。

一方アパートの屋上のベランダでは、タバコを吸いながらテレビを見ている妹のベティ。
放送が終わると通りへ出てカフェ<静かなる父>へと入っていく。

 毎週金曜日は長男アンリが父から受け継いだカフェに集うメナール一家だったが、今日はヨランドの誕生日ということで、みんなで一つ星レストランへ向かうことにしていた。

母親にフィリップとヨランドもカフェにやってきて全員揃ったが、アンリの妻が外出中ということで店内でしばらく待つことにするが、アンリの妻が実は家出しているということが判明し、しかたなく店内でヨランドの誕生日を祝うことにする。

しかし楽しいはずの誕生会は、それぞれが家族に対して日頃から不満に思っていたことをぶつけあう、気まずい場へと変わっていった・・・。

作品データ

  • 製作年/製作国/上映時間:1996年/フランス/111分
  • 監督:セドリック・クラピッシュ
  • 脚本:アニエス・ジャウィ/ジャン=ピエール・バクリ/セドリック・クラピッシュ
  • 原作:アニエス・ジャウィ
  • 音楽:フィリップ・エデル
  • キャスト:ジャン=ピエール・バクリ/ジャン=ピエール・ダルッサン/カトリーヌ・フロ/アニエス・ジャウイ

レビュー

 「ムッシュ・カステラの恋」のアニエス・ジャウイ&ジャン=ピエール・バクリの名コンビによる大ヒット戯曲を、「猫が行方不明」のセドリック・クラピッシュが映画化した『家族の気分』をDVDにて鑑賞。

当時たまたま見た雑誌にフランス映画特集というものが掲載されていて、そこで見つけたのがこの作品。

 母国フランスでも大ヒット・ロングランを記録して244万人を動員する。

その年のセザール賞の、最優秀助演男優賞(ジャン=ピエール・ダルッサン)に、最優秀助演女優賞(カトリーヌ・フロ)、そして最優秀脚本賞の3部門を見事受賞した。

それほど凄い映画なのに、本を読むまでまったくタイトルも聞いたこともない作品だった。
速攻でTSUTAYA に探しに行ったのを思い出す(^^)

 毎週金曜日には、父が残したカフェ<静かなる父>へ集まるメナール一家だったが、妻が家出しそれどころではない長男のアンリに、自分の会社における世間体しか頭にない次男フィリップと、その次男だけを溺愛する母も気がそぞろ。

そんな母親の態度に不満を抱き、バーテンダーのドニとの関係もこじれている妹のベティに、自分に全く関心を寄せない夫への不満をかかえるフィリップの妻ヨランド。

カフェ<静かなる父>で和気あいあいと始まったヨランドの誕生会は、時間が経つにつれお酒も入ったことで、次第に日頃からそれぞれが抱える不平不満により、お互いをののしり合う場に変わっていく。

そうです、ただある一家の内輪もめを延々とみせられます(爆)

「ああ、そういうことってあるある」
「そうそう、そんな感情が自分の胸の奥にも淀んでるよ」

 なんだろう、観ているうちに自然に登場人物の誰かに自分を重ね、そして近くの誰かを重ねて観てしまううちに、この一家が無性に愛おしくなってくる。

そんな罵り合いの合間合間に差し込まれる、兄弟が子供の頃の、ベッドで寝ている父親と母親に子供たちが抱きつきみんなで笑い合っているシーンに、観ている間ずっと可笑しいやら切ないやら、いろんな感情がわき上がってくる。

ちなみにこのシーンの父親をクラビッシュ自身が演じてます(^^)

 家族とはコミュニティの中で一番小さな集団であり、血縁という絆により否応なく生まれてすぐに組み込まれるもの。

そしてそれはいちばん近いものでありながら面倒な関係でもあり、それは世界共通のもののよう。

そんな一番小さなコミュニティに凝縮された人間関係を、クラビッシュが独自の視点と、登場人物達への優しい眼差しで描き出していく。

 元が舞台劇であることから、映画でもほぼこのカフェの中で物語りは進んでいく。

しかも本作の出演者たちは、その大ヒットした舞台劇で実際に演じていた俳優さんたちをそのまま起用して作られているので、はまり役というところを越えて、もはや完璧にキャラクターが完成されている。

密室ということで、そのほとんどが会話のシーンなんだけど、このセリフの応酬が抜群に素晴しいのだ。

お互いの絶妙な間といい、掛け合いといい抜群のコンビネーションでみせてくれる。
心地よいテンポのよさは、まるでほんとの舞台を観ているような気分に。

 原作・戯曲・脚本に加え、長男のアンリとして出演もしているジャン=ピエール・バクリの多才ぶりは、母親ゆずりの無神経さと、時折みせる哀愁とかわいらしさを絶妙に醸し出す演技力にまで及ぶ。

そのバクリと意気投合し、共同執筆となった本作に妹のベティ役で出演したアニエス・ジャウィは、セザール賞の脚本賞を二人で受賞し、助演女優賞にもノミネートされる。

そしてなぜかこの一家の内乱に紛れ込んでいる、バーテンダーのドニ役を演じるジャン=ピエール・ダルッサンの、唯一冷静に家族達を客観的に見つめているという、一見とぼけた外見からは分らない人間力が面白く、抜群のタイミングで言うセリフも最高だった。

本作で見事セザール賞の助演男優賞を受賞している。

そして今回一番おいしかったであろう次男の妻ヨランド演じるカトリーヌ・フロの、控えめで慎ましい妻から酔っ払って悪態をつく変貌ぶりが、可愛らしいのなんの(笑)

さらにラストでみせる優しさが素敵です。
彼女も本作でセザール賞の助演女優賞を受賞しました。

ハリウッド映画に慣れてる人には退屈に思われるこの会話のシーンが、私には実に心地よく、ユーモアがありスマートでもあり、まさしくオコチャマには分からない大人気分を味あわせてくれるのだ。

 映画を見続けていると、こんな素晴しい映画に突然に出会うことができる。
こんな奇跡があるから、映画鑑賞ってやめられないのだ(^^)

私のとっておきの超オススメ作品です。

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このレビューをアップした時点で、残念ながらPrime videoでは配信されていません。(2022/08/01)

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