映画『チャンス』レビュー ★★★☆

出典元:https://www.amazon.co.jp/

あらすじ

 目覚まし代わりにテレビの電源が入ると、ブラウン管にオーケストラの画像が映し出され、クラシックの音楽が流れだすと、チャンス(ピーター・セラーズ)はおもむろにベッドから起き出す。

まず髪をとき、窓辺の花を置き換え、車のほこりを丁寧に拭き取ると、庭の手入れをはじめる。
一息つくとまた自分の部屋に戻り、テレビを観ている。

テーブルにつき、テレビを観ながら朝食が運ばれてくるのを待っていると、メイドのグレースが険しい表情で部屋に入ってきて、チャンスに告げる。

「ご主人様が亡くなっている」

しかしチャンスは何事もなかったように、テレビを見続けている。
心配するグレースはチャンスに、年上の女性と結婚するように忠告すると、その場を去って行った。

 しばらくすると当主の代理人の弁護士がやってきて、テレビを観ていたチャンスに何者かと問うが、物心ついたときから、ここで庭師として働いているという以外、親族でもなく庭師の記録もないことから、屋敷を閉鎖するのでここから退去するように言われる。

30年屋敷から外へ出たことのないチャンスは、トランク一つを手に屋敷のドアを開け、外の世界へ踏み出していった。

初めて見る世界に戸惑いながら、街をさまようチャンスは、街頭のある店のショーウィンドウに置いてあったテレビに、自分が映っていることに夢中になり、歩道際でバックしてくる車に気がつかず足を挟まれてしまう。

慌てて車内から飛び出してきた女性イヴは、賠償などの面倒が起きないよう、自宅に医者がいるので一緒に自宅戻り、そこで足の治療をするように促す。

チャンスは車内でイヴに名前を問われると、差し出された酒にむせながら「庭師(ガーデナー)のチャンス」と答えるが、「チャンシー・ガーディナー」と名前を勘違いされる。

やがて車は立派な門をくぐり、お城のような大きな屋敷の前で止まった。
そこは政界にも顔が利く、経済界の大物ベンジャミン・ターンブル・ランドの屋敷だった。

作品データ

  • 製作年/製作国/上映時間:1979年/アメリカ/130分
  • 監督:ハル・アシュビー
  • 脚本・原作:ジャージ・コジンスキー
  • 音楽:ジョニー・マンデル
  • キャスト:ピーター・セラーズ/メルヴィン・ダグラス/シャーリー・マクレーン/ジャック・ウォーデン

レビュー (ネタバレあり)

 哲学者ニーチェの著書「ツァラトゥストラはかく語りき」をもとに、ジャージ・コジンスキーが書き下ろした「庭師 ただそこにいるだけの人」を、「ハロルドとモード 少年は虹を渡る」や「帰郷」のハル・アシュビーが監督した『チャンス』をBlu-rayにて鑑賞する。

 物心ついたときから、屋敷の中で庭師として働いていたチャンスは、主人の死により外の世界へ放り出されるが、チャンスの子供のような純真な心に触れた人々は、経済界の大物ベンジャミンやその妻イヴをはじめ、たちまちチャンスに惹かれるようになり、ついには大統領までもが、演説でチャンスの言葉を引用してしまう存在に・・・。

 庭の手入れとテレビが観たいという欲求以外、なんの煩悩を持たない無垢な精神を宿すチャンス。

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ただチャンスの庭師としての言葉を、勝手に奥深い意味があると深読みし、財界人や政界人などエリーと呼ばれるもの達が、聖人にでも会ったように感心していく姿を、観ているこちらはその勘違いをクスクス笑いながら観ていくことになる。

なんとも微笑ましい、社会風刺コメディの名作です。

 まずこの庭師でありながら、穏やかな表情に聖人のようなたたずまいで、ナチュラルにチャンスを演じたピーター・セラーズは絶賛され、第52回アカデミー賞の主演男優賞にノミネート、さらにゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞する。

ただそんな素晴らしい演技を見せたくれたピーター・セラーズは、本作公開の翌年1980年に、心臓発作により54歳という若さで神に召される。

なにか不思議な運命の力を感じてしまう。

そしてそんなチャンスにより、心を癒やされていく財界の大物ベンジャミンを、溢れる威厳と格調の高さで演じ上げたメルヴィン・ダグラスは、見事アカデミー賞助演男優賞を78歳で受賞する。

加えてチャンスに恋心を抱いてしまう人妻イヴにも、アメリカを代表する女優シャーリー・マクレーンを起用し、なんとも贅沢なキャスティングを堪能できる。

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 ただ後半に向けて、自分の意思とは関係なく、どんどん祭り上げられていくチャンスが最後どうなるのかを、次第に心配しながら観ていくことになる。

そして衝撃のラストシーンで、本作はどういう映画だったのかと、まったく違う印象を残す作品となる。


【ここからネタバレ】




 ベンジャミンはドクターに延命措置はもういいと断り、チャンスにイヴを頼むというと、静かに息を引き取る。
ベンジャミンの葬儀の中、チャンスは何かに誘われるように、一人その場を離れ森の中へと入っていく。

倒れかけた苗木を直しながら歩いているチャンスは、目の前に広がる湖の中に平然と入っていく。
一歩づつ踏み出す足は、水の中に沈むこともなく、チャンスはそのまま神のように水の上を歩いていった・・・。

なんという不思議なエンディングだろうか。

特典映像について

Blu-rayの特典映像のなかに、このエンディングにまつわる裏話が入っていた。

もう一つのエンディングということで、この映像も入っていたんだけど、なんてことは無いあっさりしたハッピーエンド。

森の中に入っていったチャンスの元を追いかけてきたイヴが現れ、二人仲良くにこやかに歩いて行くというもの。

ただ撮影監督のキャレブ・デシャネルが、ピーター・セラーズとメルヴィン・ダグラスが、廊下を歩くシーンで、二人の息がぴったりで見事にシンクロし、影が床に映り水上を上を歩いているように見えるといった言葉で、ハル・アシュビー監督がひらめいて本編に使われたエンディングになったとのこと。

 このエンディングにより、本作はクスクスと楽しみながら観る風刺コメディから、奥深い何かを感じさせる作品へと変わっていく。

また本作が、ニーチェの有名な哲学書「ツァラトゥストラはかく語りき」が元になっていることを、見終わった後に知り、さらにこの作品を深読みしていくことに。

全編を通して伝わってくる哲学を思わせる数々の台詞は、そこからだったんだと勝手に納得し、最初にチャンスが屋敷を出て行く時に、あの「2001年宇宙の旅」の音楽「ツァラトゥストラはかく語りき」が流れていたのは、ここにつながっているんだと感心した。

そしてこのニーチェのあまりにも有名な著書「ツァラトゥストラはかく語りき」とは、いかなるものかとさらに調べるはめに。

いろいろネットで調べてみると、これはニーチェ自身をモデルにした物語らしく、全4章もありざっくり第1章のあたりだけをまとめてみると、十年もの間山奥にこもって一人思索にふけっていたツァラトゥストラが、ある日人間界に自分の知識を分け与えようと思い立って、山を下りて人々に自分の思想を伝えていくという話。

ということは、本作ではチャンスがこの賢者ツァラトゥストラということなのか。

そこでさらに深読みしてしまう。

ただの庭師だと馬鹿にしていた自分が、一番勘違いしていた人間だったんじゃないか。
見た目や既成観念に縛られていたのは、自分じゃったんじゃないか・・・。

深読みが止まらなくなる(笑)

ああ~、もうきりがない疲れた、やめやめ(爆)

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