あらすじ
ロサンゼルス・ラムズの控えのクォーターバック、ジョー・ペンドルトン(ウォーレン・ベイティ)は膝の故障も癒え、念願のスーパーボウル優勝に向けトレーニングに励んでいた。
チームの練習を見ていたオーナーや監督も、復帰したジョーの好調さに目を見張ると、スーパーボウルではライバルのジャレットに代えて、ジョーをクォーターバックで出場させることを決定する。
その日自宅で趣味のサックスを吹きながら、映写機でフットボールの試合を見ていたジョーのもとに、チームのトレーナー マックス(ジャック・ウォーデン)が誕生日の祝いにケーキを持ってやってくる。
そしてマックスはジョーへ、今度のスーパーボウルは「君がクォーターバックだ」と伝える。
スーパーボウルに向けさらにトレーニングに熱が入るジョーは、自転車でやまなみのハイウェイを力強く走っていたが、トンネルの中で対向車線から追い越しを掛けて飛び出してきた自動車と事故に遭ってしまう。
気がつくと、霧が立ちこめる真っ白な空間をスーツ姿の知らない男と歩いているジョーは、これは夢だと思い込んでいる。
勝手に動き回るジョーに、自分は案内人だと名乗る男はここは天国への中継駅だといい、目の前に止まっている飛行機に乗り込んでいく人たちの後ろに並ぶよう促すが、ジョーはこれは夢だといって聞かない。
そこへ現れた天使長のジョーダン(ジェームズ・メイソン)は、ジョーが死んだことを丁寧に説明するが、間違いだといって抗議するジョーを見て、もう一度ジョーの到着予定を再確認するとそれは50年後だった。
どうやら案内役は今回が初めてだという案内人の早とちりで、ジョーを天国に連れてきてしまったことが判りすぐに現世へ連れて戻ったが、既にジョーの体は火葬された後だった。
落胆するジョーにジョーダンは、死亡が確認されていない遺体なら乗り移れると、二人で候補となる死を向かえそうな人間のもとに向かうが、スーパーボウル出場をあきらめられないジョーは、フットボールが出来る体にして欲しいといずれも拒否する。
なかなか代わりの肉体を受け入れられないジョーに困り果てるジョーダンは、次に大富豪の実業家レオ・ファーンズワースのもとを訪れる。
妻のジュリアン(ダイアン・キャノン)とその愛人でもある専任秘書のトニー・アボット(チャールズ・グローディン)に、麻酔で眠らされ浴槽で死にかけているファーンズワースを見てジョーは一旦は拒否する。
しかしそこに現れた一人のイギリス人女性ベティ・ローガン(ジュリー・クリスティ)を見て心を奪われと、しばらくの間という条件でファーンズワースの体を受け入れる。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:1978年/アメリカ/101分
- 監督:ウォーレン・ベイティ/バック・ヘンリー
- 脚本:エレイン・メイ/ウォーレン・ベイティ
- 原作:ハリー・シーガル
- 音楽:デイヴ・グルーシン
- キャスト:ウォーレン・ベイティ/ジュリー・クリスティ/ジェームズ・メイソン/チャールズ・グローディン/ダイアン・キャノン
レビュー
1941年のアレクサンダー・ホール監督作「幽霊紐育を歩く」を、ウォーレン・ベイティが監督、脚本、主演でリメイクした『天国から来たチャンピオン』をBlu-rayにて鑑賞。
回避できたはずの交通事故を、未熟な天使の早とちりで50年も早く天国へ連れてこられてしまったフットボール選手が、代わりに天使から大富豪の体を与えられ、そこに現れた一人の女性と恋に落ち、さらにスーパーボウル優勝への夢を目指すファンタジー・コメディ。
まず始まって早々に間違って天国へ来てしまったジョーが、大富豪の実業家となって蘇るんだけど、その妻のジュリアンがファーンズワースのことをサディストと呼ぶシーンなどがあり、たぶんあまりいい性格ではなかったのが分る。
そんな男がある日突然別人のように変わったことで、戸惑う執事や使用人にメイドなど周りの人たちの姿がコメディタッチで描かれていく。
そして戸惑っていた周りの人たちが、次第にジョーの人柄に触れて惹かれはじめる様子がとっても微笑ましく、たぶんこの大富豪のまま行っても素晴らしい作品になってたと思うんだけど、ここで終わらせないところが本作の凄いところ。
どうしてもスーパーボウルに出場したいジョーは、生前友人でもあったトレーナーのマックスを屋敷に呼び、トレーニングをはじめるという展開に。
このマックスが屋敷にやってきたときの、ジョーとのやりとりが一番好きなシーン(^^)
そしてトレーニングを重ね、さらに大金を積んでチームまで買収することで、いよいよスーパーボウル出場の夢が叶いそうなところで、また新たな展開が訪れる。
この一筋縄ではいかない練り込まれた秀逸な脚本が、最高に素晴らしいのだ。
またキャスティングについても、ウォーレン・ベイティをはじめそれぞれの俳優たちの好演によって、登場するキャラクターすべてが生き生きと個性的に躍動している。
特にファーンズワースを何度も殺そうとする、ジュリアンとトニーを演じるダイアン・キャノンとチャールズ・グローディンのテンポのよい掛け合いが抜群で、この芸達者ぶりは悪人なんだけどなんだか微笑ましく憎めないんだなあ(^^)
原題の「Heaven Can Wait」から、本作はいつ終わりが来るかわからない人生において、思い残すことがなくなるまで”天国は待ってくれる”という、夢や希望を与えてくれるメッセージを勝手に感じる。
過酷な運命を受け入れ、それでも夢に向かって一歩を踏み出していく主人公のポジティブさも心地いい。
そしてそれ以上に誰の身にも宿る、目に見えない魂というものの存在と輝きを意識させる。
【ここからラストまでネタバレしています】
ファーンズワースは結局あの二人に殺されることになっていて、天使長のジョーダンから運命には従わないといけないと、ジョーの魂はさらに別の体に移ることになる。
その新たな体とは、スーパーボウルの試合中の事故で瀕死の状態でいたジャレットだった。
タンカの上で横たわるジャレットは瞳孔も開き、救急車を呼ぶ状態だったが、突然立ち上がり駆け出すジャレットに満員の観衆は大いに沸く。
そしてジャレットの活躍によりチームは見事勝利を収める。
ロッカールームで優勝の喜びを爆発させている選手たちの横で、テレビのインタビューを受けていたジョーの前に、「時間が来た」といって現れたジョーダンは、これまでに起こったことはすべて忘れるといい残し消えていく。
試合終了直後にはジョーの魂がジャレットに乗り移っていると分っていたマックスが、抱き合って喜びを分かち合うんだけど、この記憶が消えた後に会ったジャレットの体には、もうジョーはいないと分ったときのマックスの切なさが胸に迫る。
そしてこの時のジャレットの表情や話し方が、ジョーとは全くの別人のように変わるウォーレン・ベイティの演技に凄みを感じる。
そして「うわ~、なんて切ないラストなんだよ」と思っているところにベティが現れ、お互い初対面なんだけどすぐに何かを感じ合い、二人は連れだってグラウンドを歩いて行くという、幸せの余韻までしっかりと感じさせてくれたラストシーンでエンドロール。
完璧です(^^)
本作は第51回アカデミー賞に9部門ノミネートされるも、マイケル・チミノ監督の「ディア・ハンター」とハル・アシュビー監督の「帰郷」に阻まれ、受賞は美術賞だけだった。
ただこの年のゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門では、見事作品賞・主演男優賞・助演女優賞を受賞する。
あと、2002年に本作はさらにリメイクされ、コメディアンのクリス・ロック主演で「天国からきたチャンピオン 2002」が公開されている。
なおBlu-rayの特典映像についてだけど、残念ながら予告編すら入っていませんでした、ガクッ。
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