あらすじ
ビデオカメラが作動する音で粗い画像が映し出される。
再生されたビデオテープの画像に写るベランダで踊っている男に、カメラで撮影している少女の声が重なる。
「待って、インタビューする」
「パパに?何を聞くんだ?」
暗いダンスホールの中にたたずむ女性。
撮影されたビデオテープの映像が、早送りで巻き戻されていく・・・。
トルコへと向かう夜行バスに乗り込んでいる、11歳の少女ソフィ(フランキー・コリオ)と父親のカラム(ポール・メスカル)。
普段は離れて暮らしているカラムと娘のソフィは、澄み渡る青空と美しい海が輝くトルコのリゾート地で、ふたりきりの一夏のバカンスを楽しむ・・・。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:2022年/イギリス・アメリカ/101分
- 監督・脚本:シャーロット・ウェルズ
- 音楽:オリヴァー・コーツ
- キャスト:ポール・メスカル/フランキー・コリオ/セリア・ロールソン=ホール
- 公式サイト:映画『aftersun/アフターサン』
レビュー
雑誌「BRUTUS(ブルータス)」で沁みる映画特集があり、そこで映画好きにアンケートを実施して第2位選ばれた『aftersun/アフターサン』をAmazonプライムで鑑賞。
本を見るまで全く知らなかった映画だったけど、調べてみるとアカデミー賞を始め様々な映画賞にノミネートされ、評論家からも絶賛されていた作品だった。
事前に、離れて暮らしていた父親と娘がトルコで一緒にヴァカンスをただ楽しむという解説を軽く読み、ふたりで過ごした幸せの時間はやがて終わりを迎え、観終わった後は幸せと別れの切なさを感じさせる切ない作品だろうなという、涙の期待が早くも膨らむ。
11歳の少女ソフィ(フランキー・コリオ)は、イギリスで離れて暮らしていた父親のカラム(ポール・メスカル)と、トルコのさびれた海辺のリゾート地へとバカンスに出かける。
ふたりきりで過ごす日々は、眩しいほどの太陽の輝きと穏やかな海が奏でる波の音に包まれ、日常を離れ夢のような幸せの時間に溢れていた。
時は流れ、父親と同じ31歳の誕生日を迎えたソフィは、バカンスの間にビデオカメラで録画していた思い出のビデオテープを再生し、あの時の父親の本当の姿を捜していく・・・。
観終わった今、まず最初に浮かんだ感想は、11歳の少女と久しぶりに会っただろう父親がふたりっきりで、楽しくバカンスを過ごしているシーンを最初から最後までただ見せられただけなんだけど、これどういう映画?
父親は娘を溺愛し、娘も父親が大好きで、幸せに包まれたふたりを見ているだけで微笑ましくはなるんだけど、本作はどこを絶賛され評価されたんだろう?だった(^^;)
ただ見ている間、しあわせな時間を過ごしているはずなのに、なぜかずっとこのふたりに何か悪いことが起きるんじゃないかという、不穏な空気が漂っていて、唐突に挿入される死を予感させるシーンに、幸福感はそのたびに消えていった。
自分は何か大事なものを見落としている?
特にラストシーンを観て、時間が経つにつれこれは何かを暗示してるんじゃないかと、気になってしょうがなくなっていった。
散々考察したあげく、やっぱり何か見逃しているものがあるんじゃないかと結局続けて2回観ることになった(^^;)
【ここからネタバレで考察】
劇中ではふたりのそれぞれの環境などほとんど説明もなく、所々で挿入される大勢が踊っているダンスホールの暗がりの中、フラッシュで浮かび上がってくるカラムの姿や、20年後のソフィらしい姿が浮かび上がるシーンも意味不明だった。
結局じっくりと2回目を観ていて、ラストでソフィーとカラムがダンスをするシーンで、クイーンとデヴィッド・ボウイ共作の『Under Pressure』という曲が流れるんだけど、その歌詞で作品を覆っていた靄が吹き飛んでいった。
その歌詞を字幕から抜粋してみる。
”この世界を知るのは恐ろしい
重いプレッシャー、路頭に迷う人々
世の中すべてから目をそらし、知らん顔では変わらない
愛を求めても傷だらけに
なぜ?どうして?
もう一度だけ試せないのか
もう一度だけ愛にチャンスを
なぜ愛を与えられない
だって愛は時代遅れの言葉だから
だけど愛は君に勇気を与える
夜の片隅にいる人々に想いを寄せて
愛が勇気を与え君が変えていく
互いに思いやるように
これが最後のダンス
これは僕たちの姿”
カラムが海の底に潜っていったのに、そのまま上がってくるシーンがなかったり、ベランダの柵に立ち上がって両手を広げたり、急に鏡に唾を吐いたりと、カラムが情緒不安定な様子を垣間見せる。
さらにソフィが大勢の前で歌を披露するシーンがあるんだけど、あんまり上手じゃなくて、歌い終わった後にカラムが「歌のレッスンを受けさせてもいいぞ」っていうんだけど、ソフィが「やめて、お金もないのにそんなこと」と言われ、ショックのあまり真っ暗な海の中に入っていくシーンも。
完璧に作品とシンクロした『Under Pressure』(意味:プレッシャーがかかっている、ストレスを感じている)聴いて、そんなカラムがバカンスの間どういう気持ちだったのかがなんとなく分ってきた。
それはたぶん、仕事もお金もないカラムは、ソフィの幸せを願うプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、懸命に追い詰められた心を隠し、いつまでも思い出に残るような最後の時間を作ろうと決めて過ごしていたんだろうということだった。
世の中は哀しいかな愛だけでは生きていけない。
それでも人は愛なしでは生きていけない。
ラストシーンで、カラムはビデオカメラの録画を止めて、ひとり誰もいない白い通路を奥に向かって歩いて行く。
そしてその先にある扉を開けると、そこにはあの暗闇のダンスホールがあり、その中に入っていくカラムは完全にソフィとの別れを予感させた。
情緒不安定で突発的な行動を起こしていたカラムだったので、ソフィを見送った後、自ら命を絶ってしまったんではないかということも頭の中をよぎる。
カラムと同じ歳になったソフィは、ビデオに写るカラムの姿を見て、当時思春期まっただ中の自分にそんなストレスを抱えていただろう父親の心情を推し量ることは出来なかったが、今ならと想いを馳せる。
あの時、もしも父親の心の声に耳を傾けることが出来ていたら。
そして時を超えて、夢の中束の間20年前の真実の父親をソフィは抱きしめるが、目覚めるとそこには大好きだった父親の姿はない。
さらにあの時自分が父親に投げかけた「11歳の時、将来何をしてると思ってた?」という問いを、今現実の世界で生きる自分に向ける。
いつまでも忘れたくない幸せだった大切な思い出に想いを馳せるたびに、父親の愛に応えられなかった心の痛みを感じてしまうソフィを想い、観ていて胸がえぐられる。
その痛みは、劇中に隠された何かを解明すればするほど大きくなるという、とんでもない作品だった。
劇中ではそれが何かはほとんど説明されず、ただこの所々にちりばめられた情報から、観た者それぞれが深掘りし、考察していくというハードルの高さに、映画好きが熱狂する要素があり、それが世界中で絶賛された魅力だったんじゃないだろうか。
ただ見終わった後にわき起こる感情には、過去の大切な人を想うノスタルジーや優しさはなく、ただただ胸の痛みがあるだけで、私の中では素直に受け入れられない作品だった(^^;)
なので、今も考察を続けている(笑)
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