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映画『タクシードライバー』レビュー ★★★★

出典元:https://www.amazon.co.jp/

あらすじ

 ニューヨーク、タクシードライバーに採用して欲しいとトラビス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ)はあるタクシー会社を訪ねる。

受付の男の「なぜタクシードライバに?」の質問に「夜眠れないんだ」と答えるトラビス。

夜のブロンクスやハーレムなど、いつでもどこでも走れるということで採用される。

 トラビスはタクシーを流しながら、そこから目に映る娼婦や酔っ払いに麻薬売人などで溢れる夜の街に吐き気をもようし、”奴らを根こそぎ洗い流す雨はいつ降るんだ”と心の中でつぶやく。

 そんなある日、トラビスは偶然次期大統領候補パランタインの選挙事務所で働く女性ベツィ(シビル・シェパード)を見て、まるで天使だと心を奪われる。

ベツィは選挙事務所の中、同僚のトムに窓の外から自分をじっと見ているタクシードライバーがいるという。

そこは邪魔だと言って外に出てきたトムに、トラヴィスは慌ててタクシーを発進させる。

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 数日後、トラビスは意を決して選挙事務所に入っていくと、窓際の席に着いていたベツィの前にズカズカと歩み寄り、君みたいな美人は初めてで、ぜひ手伝いがしたいと申し出る。

困惑しながらも仕事の割り当ての話をしようとするベッツィに、トラヴィスずっと夜勤でタクシードライバーをしているので昼間は無理かもといい、代わりに一緒にコーヒーでも飲もうと誘う。

「君はひとりぼっちだ」と真剣に語るトラビスに興味を抱いたベツィは、休憩時間の合間にトラヴィスと喫茶店に行き、デートの約束をする。

 いつものようにこの夜もタクシーで街を流し、繁華街で客を降ろすトラビスだったが、そこへ慌てて乗り込んできた少女が「早く逃げて!」と叫ぶ。

トラビスが何事かと思う間もなく男がやってくると、「バカなまねはよせ」と嫌がる少女を無理矢理引きずりだし、タクシーの窓から何でもないとクシャクシャに丸めた20ドル札を投げ込み、街の中に消えていった・・・。

作品データ

  • 製作年/製作国/上映時間:1976年/アメリカ/114分
  • 監督:マーティン・スコセッシ 
  • 脚本:ポール・シュレイダー
  • 音楽:バーナード・ハーマン
  • キャスト:ロバート・デ・ニーロ/シビル・シェパード/ジョディ・フォスター/ハーヴェイ・カイテル /ピーター・ボイル

レビュー

 ロバート・デ・ニーロマーティン・スコセッシ監督の名と才能を、一躍世に知らしめた衝撃の問題作『タクシードライバー』を久しぶりにBlu-rayにて鑑賞。

ニューヨークの街に飲まれ、孤独という名の闇に心をむしばまれていく一人の男を描いた本作は、第26回カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞をはじめ、世界各国の映画賞を受賞する。

ただこれだけの傑作なのに、肝心のアカデミー賞には作品賞や主演男優賞・助演女優賞などにノミネートされただけで、監督賞にはノミネートすらされていない。

そしてなんとこの年の第49回アカデミー賞の作品賞と監督賞は、ジョン・G・アビルドセンの「ロッキー」が受賞している。

この1976年はアメリカの映画界が、アメリカン・ニューシネマに代表される悩めるアメリカから、アメリカン・ドリームへと舵を切った瞬間だったのかも。

 不眠症に悩むトラビスは、タクシードライバーとして毎夜ニューヨークの街を治安の悪い地区も構わず走っていたが、下町の汚れきった人々を見るたびに、ひとり孤独を感じていた。

そんな荒んだ日々に、一人の美しい女性ベツィが目に留まり、デートにまでこぎ着けるがすぐに破局し、その傷ついた心はさらに孤独を生み、いつしか極限に達したフラストレーションは、選挙中の次期大統領候補パランタインへと向かって行く・・・。

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 ベトナム帰還兵として、心を病んでしまったトラヴィスを、派手なネオンに、ギャングや娼婦が溢れかえったニューヨークの下町は、夜ごとあざ笑うかのように息づいている。

自分を受け入れない世の中への不満と、自分を侮るものたちに対する怒りは、まともな人間はどこにもいない、自分だけが正しいと一人孤独を抱えるトラビスを、次第に狂気へと駆り立てる。

 最初に観たときのラストの衝撃から、凄い映画を観たという印象を強く残した作品だった。

ただ久しぶりに観ると、この主人公のトラビスが闇へ落ちていくという過程が、本作のほとんどの時間を要して描かれていたことに驚く。

その執拗なスコセッシ監督の演出に、結末を知っていたこともあったと思うが、トラビスが抱くストレスと共鳴するように、観ているものの主人公へ対するストレスも上がっていく。

そしてあたかも悩めるアメリカを象徴するような主人公トラビスの目線で描かれる心の動きは、その度合いは人それぞれだけど、誰しもが抱えるストレスの中で湧き上がる感情であり、そのリアルな心の痛みに胸が悪くなっていった。

さらに強烈な嫌悪感を抱かせる主人公と、自分の感情が重なることに恐怖する。

果たして主人公は異常なのか、それとも不条理な世の中なのか・・・。

そんなことまで考えさせられる、とんでもない作品だ(^^;)

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 今観ると驚くほど若々しいデ・ニーロは、トラビスの狂気と一体となり、心の闇を乗り移ったように映し出す姿は、当初不気味なほどの無表情だった顔が、次第に狂気で歪んでいき、リミッターを超え衝撃のラストに向けて微笑みを浮かべる。

まさしく孤独に蝕まれていくトラビスそのものだった。

 そんなトラビスが一目惚れしてしまうベツィを演じるシビル・シェパードの透明感に、少女の娼婦アイリスというとんでもない役を撮影時13歳という若さで演じたジョディ・フォスターも印象深い。

さらに、短い出演時間の中、強烈な存在感を見せたのが、娼婦のポン引きスポーツを演じたハーベイ・カイテル

裏の世界で生きるものたちの、柄の悪いゲス感に凶暴性を見事に宿していた。

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 終始流れるけだるいサックスの音色は、決してなくなることのない現代社会の暗部に、引き込まれた人々を虜にするように、観終わった後も頭の中を切なく鳴り響く。

引き込まれてしまったことさえ忘れてしまうように。

 ただ傑作とも呼ばれる作品だけど、観終わった後の”感慨にふける”からはほど遠いほどのやりきれなさは、また観たいという感情を失わせ、次は当分観ることはないだろうと確信する(^^;)

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