あらすじ
アイオワ州、エンドーラの静かな田舎町。
ギルバート・グレイプ(ジョニー・デップ)はこの町に生まれ、24年の月日が流れていた。
ギルバートは今年18歳になる脳障がいを持った弟アーニー(レオナルド・ディカプリオ)と、しっかりものの姉エイミー、年頃で生意気な妹エレン、そして夫を亡くしたショックから過食症になり身動きが出来ないほどに太ってしまった母ボニー(ダーレン・ケイツ)と一つ屋根で暮らしている。
ギルバートの一日のほとんどはアーニーの世話と、母親の食費を稼ぐために町の小さな食料品店で働くことに費やされていた。
作品データ
- 製作年/製作国/上映時間:1993年/アメリカ/117分
- 監督:ラッセ・ハルストレム
- 脚本:ピーター・ヘッジズ
- 撮影:スヴェン・ニクヴィス
- 音楽:アラン・パーカー/ビョルン・イスファルト
- キャスト:ジョニー・デップ/レオナルド・ディカプリオ/ジュリエット・ルイス/メアリー・スティーンバーゲン/ダーレン・ケイツ
レビュー
アメリカに招かれたラッセ・ハルストレム監督が、ハリウッドの若手俳優たちを迎えて描きあげた心に残る一本、『ギルバート・グレイプ』をBlu-rayにて鑑賞。
今は亡き父親が手作りで築いたオンボロ屋敷で、知的障がいを抱える弟アーニーと身動きできないほどに太ってしまった母親を、家を出た兄の分まで必死に守り続け、日々献身的に家族のことを最優先にして生きているギルバート・グレイプ。
そんな家族のことだけを想い、本当の自分から目をそらして生きていたギルバートの前に、ある日キャンピングカーに乗って旅を続けている女性ベッキーが現れる。
自由と希望の風を共に乗せて・・・。
まず家族という絆に束縛され続けるギルバートの姿はいじらしくも切なく、未来への夢や希望、そして感情すらも閉ざしてしまったギルバートに、好奇の目にさらされる母やアーニーの将来を思うと胸が苦しくなる。
ただ、そんな深刻なストーリーなんだけど、観ていて私は不思議なほど暗い気持ちにはならなかった。
それはラッセ・ハルストレム監督が描く作品にいつもある、厳しさの中にも散りばめられたユーモアと喜び、そして垣間見せる未来への希望がそう感じさせるんだろう。
加えてハルストレム作品のいつもどこか寒々としている景色も、名手スヴェン・ニクヴィス撮影監督の手により、どこまでも広がる雄大な風景は叙情的に映し出され、木々のざわめきに、登場人物たちすべてに降り注ぐ穏やかな光は、観るものの心に安らぎを与える。
まさしくジョニー・デップの長髪がなびく様に、全編を吹き渡るやさしい風に清々しい気分にさせられる。
キャスティングについてはまず、今や大スターとなったジョニー・デップの瑞々しほどの若さと誠実さが眩しい。
未来をあきらめてしまったギルバートが、その瞳に宿す悲しみや優しさを、同世代の俳優と一線を隔す深みある眼差しで感じさせる。
そして、本作でアカデミー助演男優賞にノミネートされたレオナルド・ディカプリオの、奇跡のような演技に驚かされる。
同じような障がい者の役を演じると、大抵「レインマン」の様にテクニックを駆使して、いかにもな演技感が出てしまうが、ディカプリオのそれは知らない人が見たら分からないほどリアルさだった。凄いの一言。
そしてそして、ギルバートに自由と希望の風を吹き込んだベッキー役のジュリエット・ルイスの、清楚な輝きに芯の強さをも感じさせた演技力。
結構ヘンテコリンな役が多い彼女の、あ~こんな爽やかな雰囲気も出せるんだ、なんて意外な一面を見れて得した気分。
さらにさらに、フレッシュな若手俳優以外に、らしくない役だったけどいつまでも麗しいメアリー・スティーンバーゲンまで出演していることに感謝(^^)
最後の捨て台詞も最高!(笑)
大好きなラッセ・ハルストレム作品の中でも、一番のお気に入り作品であり、改めてこの監督の、人と人を繋ぐ絆の、優しさと力強さを愛する心を感じた。
抱えきれないほどのストレスに感情を押し殺してしまったギルバートほどではないが、今いる自分の環境を変え”どこかへ”と想いを馳せ、人生の新たな一歩を踏み出したいと願う人たちの背中に、そっと優しく手を添える。
本作はそんな心の温もりと希望を与えてくれる素敵な作品。
一番好きなシーンは、ベティがギルバートに「あなたの望みを思い浮かべて」と言うと、ギルバートは家族のことばかりを話すので、ベティが「自分の望みは?」と聞くと、「いい人間になりたい」と答えるシーン。
それはギルバートは自分ではいい人間ではないと思っているということで、彼が背負う責任の重さと、彼の優しさと誠実さが溢れた素敵なシーンだった。
【ここからネタバレあり】
自由でしっかりと自分の道を歩いているベッキーとの出会いにより、心を動かされていくギルバートは、言うことを聞かないアーニーに手を上げてしまう。
さらに母ボニーも、このままではいけないと2階への階段をひとり汗だくで登った後、ベッドで静かに息を引き取ってしまう。
まるで神様から与えられたような試練の中でもがき、立ち止まっていたギルバートだったが、くしくも最愛の母親の死をきっかけに、新しい未来へと踏み出す。
ラスト、爽やかな温もりと優しさに包まれて眺めるエンドロールの心地よさ(^^)
しばらく幸せの余韻に浸っていた。
まさしくどんなに言葉を尽くしても、その作品の良さが伝えきれないくらい素敵な映画であり、私はこんな作品にめぐり逢うために、映画を見続けているんだと確信する。
Blu-rayの特典映像について
このBlu-rayの特典映像には、本作が大好きな方には堪らないだろう素敵なスタッフ・キャスト達のインタビューシーンがたくさん収録されていて、もう感激でした(^^)
まず髭をたくわえ既にジャック・スパロウのように風貌が変わったジョニー・デップが当時を振り返り、自身が撮影時精神的に動揺している時期で、偶然ギルバートとシンクロしていたと語る。
あのストレスを抱え、感情を押し殺したような繊細な表情は、自然ににじみ出たものだったんですね。
レオナルド・ディカプリオは、撮影時に撮ったインタビューシーンのようで、役にかける意気込みや、監督に自分なりの演技を提案しているシーンなども入っていて、19歳にしてすでに演技派の片鱗を伺わせます、凄い。
ラッセ・ハルストレム監督も、そんなレオの才能に驚き、あの母親がベッドで既に亡くなっていることにアーニーが気がつくシーンも、実はレオの即興だったとのことが判明。
他にも変わらず美しいメアリー・スティーンバーゲンや、役とは反対に快活にお喋りするジュリエット・ルイスも収録されています(^^)
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